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書籍

2920年、第5巻

2920: 第一紀 最後の年

カルロヴァック・タウンウェイ著

2920年 薄明の月16日
アネクイナ(今日のエルスウェア)、センシャル

「何かご心配事でも?」と、ハサーマ王妃は夫の機嫌の悪さに気づいて尋ねた。普段は恋人の日の夜となると、王は大抵上機嫌になり、他の招待客と共に舞踏場で踊っているのが常であったが、今夜は早めに引き上げてきたのであった。王妃が様子を見に行くと、彼は寝床で体を丸め、眉をひそめていた。

「あの忌々しい吟遊詩人が聞かせたポリドールとエロイサの物語、あれで気分を害してしまったよ」王は不満そうに唸った。「どうしてあのような気の滅入るような話をするのだ?」

「ですが、それこそがあの物語の真実ではないのですか? 世の理の残酷さゆえに破滅を迎えたのでは」

「真実かどうかは、どうでもいいことだ。くだらん話に、下手な語り手だ。もう二度とやらせはすまい」ドローゼル王は寝床から跳ね起きた。その目は涙で曇っていた。「どこの出だと言っていたか?」

「ヴァレンウッド東端のギルヴァーデイルだったかと」と、王妃は動揺した様子で答えた。「あなた、何をなさるおつもりなのです?」

ドローゼルは一瞬で部屋を出、塔へと続く階段を駆け上がっていった。ハサーマ王妃は夫の意図を察していたとしても、彼を制しようとはしなかった。最近は妙な言動やかんしゃくが目立ち、ひきつけさえ起こしていたのだった。だが彼女は王の乱心の根深さも、吟遊詩人、および彼が語って聞かせた人間たちの残酷さと異常さに関する物語に対し、王がどれだけ憎しみを感じていたかも気づいていなかったのである。

2920年 薄明の月19日
ギルヴァーデイル (ヴァレンウッド)

「もう一度よく聞くんだぞ」と、年老いた大工は言った。「三つめの部屋に黄銅のくず鉄があるなら、二つめの部屋に金の鍵がある。一つめの部屋に金の鍵があるなら、三つめの部屋には黄銅のくず鉄がある。二つめの部屋に黄銅のくず鉄があるなら、一つめの部屋に金の鍵がある」

「わかったわ」と、婦人は言った。「言われた通りにね。だから一つめの部屋に金の鍵があるわけでしょう?」

「違う」と、大工は答えた。「もう一度最初からいくぞ」

「お母さん?」と、少年が母親の袖を引っ張って言った。

「ちょっと待っててね、お母さんお話し中なの」母親は答えると、謎かけに意識を集中させた。「あなた言ったわよね、「二つめの部屋に黄銅のくず鉄があるなら、三つめの部屋に金の鍵がある」って」

「いや、違う」大工は根気良く答えた。「三つめの部屋に黄銅のくず鉄があるのは、二つの…」

「お母さん!」少年が悲鳴を上げた。母親はようやくその意図に気づいた。

明るい赤色の霧が波となって町に押し寄せ、建物を次々と飲み込みつつあった。その前を赤い皮膚の巨人、デイドラのモラグ・バルが大股で歩いていた。その顔に笑みを浮かべて。

2920年 薄明の月29日
ギルヴァーデイル (ヴァレンウッド)

アルマレクシアは辺り一面の泥沼の中で馬を止め、川の水を飲ませようとしたが、飲みたがらないどころか水に嫌悪を覚えているようであった。モーンホールドからかなりとばして来たことを考えれば、喉も渇いているはずである。妙だ。彼女は馬を下りると、一行のいる方へと足を運んだ。

「現在位置は?」と、アルマレクシアは尋ねた。

婦人の一人が地図を取り出した。「ギルヴァーデイルという街に近づきつつあるはずですが…」

アルマレクシアは目を閉じ、すぐにまた開けた。その光景は耐え難いものであった。従者たちが見ている中、彼女は煉瓦と骨の欠片を拾い上げ、その胸に抱いた。

「アルテウムに急ぐわ」と、彼女は静かに言った。

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