2920: 第一紀 最後の年 カルロヴァック・タウンウェイ著 2920年 薪木の月5日 帝都 (シロディール) 「陛下…」最高顧問ヴェルシデュ・シャイエは扉を挟んで言った。「扉を開けても大丈夫です。お約束します、完全に安全です。誰も陛下を殺そうとはしていません」 「ああ、マーラよ!」押さえ込むような乱心の混じった皇帝レマン三世の声がした。「誰かが皇太子を暗殺したのだ。そして彼は私の盾を持っていた。私であると思い込んだのかもしれないではないか!」 「確かにその通りです、陛下」最高顧問は軽蔑しながらも声から一切のあざけるような口調を消し去り言った。「そして、我々は陛下の息子の死に対して責任を負うべき悪人を探し、処罰しなければなりません。しかし、陛下なくしてそれはできません。帝都のために勇敢でおありください」 返答はなかった。 「最低でも出てきてリッジャ様の処刑指令書に署名願います」最高顧問は呼びかけた。「我々の知る、裏切り者であり暗殺者である1人を処分しましょう」 しばらく沈黙が続き、そして家具が床の上を引きずられる音がした。レマンは扉をほんの少しだけ開いたが、怒り、恐れている顔と、以前は彼の右目があった場所にある、引き裂かれた皮膚の盛り上がりが最高顧問には見えた。帝都の最高の治癒師の治療もむなしく、サーゾ要塞でのリッジャからの恐ろしい置き土産がそこにあった。 「指令書をよこせ」皇帝は怒鳴り声を出した。「喜んで署名してやる」 2920年 薪木の月6日 ギデオン (ブラックマーシュ) 沼地の気体と霊的なエネルギーの組み合わせであると教えられたウィル・オ・ウィスプの奇妙な青い光は、窓の外を見るたびにタヴィアを怖がらせてきた。今は妙に慰めているように見えた。沼地の向こうにはギデオンの街がある。17年間も毎日見てきたのに、あの街の街路に1度も足を踏み入れたことがないことを可笑しく思った。 「何か私が忘れているものを思いつくか?」彼女は忠実なコスリンギ、ズークに振り返りながら聞いた。 「何をすればよいのか、明白に分かっております」と、彼は簡単に言った。彼が笑ったように見えたが、彼女の笑顔が彼の銀色に光る肌に反射されたのだと女帝は気付いた。彼女は自分が笑っていることに気が付いていなかった。 「尾行されていないことを確認するのだぞ」と、彼女が警告した。「この長きに渡り、どこに我が金が隠されていたのかを夫には知られたくない。あと、自分の分け前はしっかりと取るのだぞ。そなたは良き友であった」 女帝タヴィアは前へと踏み出し、霧の中へと視界から消え落ちた。ズークは塔の窓に鉄格子を戻し、ベッドの上の枕に毛布を被せた。運がよければ明日の朝まで芝生に横たわる彼女を発見しないであろう。そしてそのころには、彼はモロウウィンドの近くまで辿りつけていることを期待していた。
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