スポンサーリンク
書籍

2920年、第2巻

2920: 第一紀 最後の年

カルロヴァック・タウンウェイ著

暁星の月14日
帝都 (シロディール)

南風の祈りを宣告する鐘の音が帝都の広い大通りや庭園に鳴り響き、皆を聖堂へと呼んでいる。皇帝レマン三世はいつも最高神の聖堂の礼拝に参列したが、彼の息子にして継承者である皇太子ジュイレックは、各宗教的祝日はそれぞれ違う聖堂にて礼拝に参列するほうが政治上より良いと思っていた。今年はマーラの慈善大聖堂であった。

慈善での礼拝は幸い短かったが、皇帝が王宮に戻れたのは正午を大きく回ってからであった。その頃には、闘技場の闘士たちは式典の始まりをしびれを切らして待っていた。最高顧問ヴェルシデュ・シャイエがカジートの軽業師の一座による実演を手配していたため、群衆はそれほど落ち着かない様子ではなかった。

「そちの宗教は我が宗教よりも都合がよいな」と、皇帝は最高顧問に謝罪するかのように言った。「最初のゲームは何であるか?」

「優れた戦士2人による、一対一の決闘であります」と、最高顧問が立ち上がりながら言った。うろこ状の皮膚が、日の光を受け止めていた。「彼らの文化に相応しい武装で」

「よいぞ」と、皇帝は言い、手を叩いた。「競技を開始せよ!」

二人の戦士が群衆の声援が沸き立つ闘技場に入るや否や、皇帝レマン三世はこのことについて数ヶ月前に約束したが、忘れてしまっていたことに気がついた。闘士の1人は最高顧問の息子サヴィリエン・チョラック。ギラギラした象牙色のうなぎは、アカヴィリ剣と小剣を一見細く、弱そうな腕で握っている。もう一方は、皇帝の息子、皇太子ジュイレック。黒檀の鎧とともに野蛮なオークの兜と盾、そしてロングソードを携えている。

「この見物は興味をそそります」と、最高顧問が息を漏らすように言い、細い顔でにこやかに笑った。「シロディールがアカヴィリとこのように戦うのを見た覚えがありません。通常は、軍対軍ですからな。やっとどちらの考え方が良いのか決着がつけられます… あなた方のように、剣と戦うために鎧を作るのか、それとも我々のように、鎧と戦うために剣を作るのか」

まばらにいるアカヴィリの参事と最高顧問以外はサヴィリエン・チョラックの勝ちを望んではいなかったが、彼の優雅な動きを目にしたとき、皆息を呑んだ。彼の剣は体の一部のようで、尻尾が腕から伸び、後ろの腕に合わせる。重量を平衝させる技で、若い蛇男を丸まらせ回転しながら、攻撃姿勢のままでの舞台の中央への移動を可能とさせた。皇太子はそれほど印象的ではない、普通の移動方法で、とぼとぼと前へ進んだ。

二人がお互いに飛び掛ると、群衆は歓喜の叫びを上げた。アカヴィリはまるで彼が皇太子の衛星軌道上の月であるかのように、後ろからの攻撃を試みるために楽々と彼の肩を飛び越えたが、皇太子は盾で防ぐためにすぐに旋回した。彼の反撃は、敵が地面に倒れこみ、スルスルと彼の足の間を抜けながら足を引っ掛けたので空を切った。皇太子は大きな衝突音とともに地面に倒れた。

皇太子はすべて盾で防いだが、サヴィリエン・チョラックが幾度となく皇太子に攻撃をしかけると、金属と空気が溶けて融合した。

「私たちの文化に盾はありません」と、ヴェルシデュ・シャイエが皇帝に呟いた。「息子には盾が奇妙に見えているのでしょう。私たちの国では、殴られたくなかったら、避けるのです」

サヴィリエン・チョラックが再度目もくらむような攻撃に備えて後ろ足で立ったとき、皇太子は彼の尻尾を蹴り彼を一瞬後ろに退かせた。彼はすぐに立ち直ったが、皇太子も地に立っていた。二人ともお互いの周りを回っていたが、そのうち蛇男が、アカヴィリ剣を突き出して前に回転しながら出てきた。皇太子は敵の策を見破っており、アカヴィリ剣をロングソードで、そして小剣を盾で防いだ。その短く突き抜く刃は金属にめり込んでしまい、サヴィリエン・チョラックは平衡を崩されてしまった。

皇太子のロングソードがアカヴィリの胸を切り、突然の激しい痛みが彼に両方の武器を落とさせてしまった。直後、戦いは終わった。サヴィリエン・チョラックは皇太子のロングソードを首に突きつけられた。解体される家畜同然であった。

「ゲームは終了である!」と、皇帝は叫んだが、闘技場内の拍手の音でかすかに聞こえただけである。

皇太子はにっこりと笑い、サヴィリエン・チョラックが立ち上がるのを手伝い、治癒師へ連れて行った。皇帝は安堵しながら最高顧問の背中を叩いた。戦いが始まったとき、息子が勝つ可能性の低さに気付いていなかった。

「彼はいい戦士になります」と、ヴェルシデュ・シャイエが言った。「そして、偉大な皇帝に」

「これだけは憶えておけ」皇帝は笑った。「アカヴィリには派手な技が多いが、我々の攻撃が1度でも通用すれば、それで終わりなのだ」

「よく憶えておきます」最高顧問は頷いた。

レマンは残りのゲームの最中、その言葉のことを考えていて心底楽しめなかった。最高顧問も、女帝がそうであったように敵なのだろうか? この件は監視することにした。

コメント

スポンサーリンク