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書籍

2920年、第17巻

2920: 第一紀 最後の年

カルロヴァック・タウンウェイ著

2920年 収穫の月1日
モーンホールド (モロウウィンド)

彼らは黄昏時に公爵の中庭に集まり、暖かい焚き火とビターグリーンの葉の香りを楽しんだ。小さな燃えかすが空へ舞い上がってはすぐに消えた。

「私は軽率だった」公爵は、冷静な口調でそう認めた。「そして、ロルカーンは彼らに味方し、全てが彼らの思うままになった。私がモラグ・トングに支払った報酬が内海に沈んだ今、皇帝の暗殺は失敗だ。君はデイドラ公たちと協定を結んだのではなかったのか」

「船乗りたちがデイドラと言っていたものが、本当にデイドラかどうか」と、ソーサ・シルが答えた。「船を壊したのは、狂暴な魔闘士や稲妻の類かもしれません」

「皇太子と皇帝は、我々との休戦協定に基づいてアルド・ランバシを占領するため、かの地へ向かっている。自分らの利権については交渉してくるくせに、我々には交渉の余地を与えないとは、シロディールの連中らしいな」ヴィベクは地図を取り出した。「アルド・ランバシの北西の、このファーヴィンシルという村で彼らを待つんだ」

「でも、そこで彼らを待って、話し合いをするのですか?」アルマレクシアがたずねた。「それとも戦うのですか?」

誰もそれには答えなかった。

2920年 収穫の月15日
ファーヴィンシル (モロウウィンド)

夏の終わりのスコールが小さな村を襲っていた。空は暗く、時折稲妻が曲芸のように雲から雲へと渡った。通りはかかとほどの深さのある川のようになり、皇太子はそう遠く離れた場所にいない指揮官たちと話すのに大声で叫ばなければならなかった。

「あそこに宿屋がある! あそこで嵐が過ぎるのを待ってからアルド・ランバシへ進むぞ!」

宿屋の中は暖かく、外の雨とは無縁のようで、にぎわっていた。バーの女たちがせわしなく、グリーフやワインを奥の部屋へ運んでいた。どうやら重要な人物が来ているようだった。タムリエル皇帝の後継者などよりもずっと重要な人物が。ジュイレックは面白がって彼女らの様子を見ていたが、そのとき、彼女らの一人が「ヴィベク」という名前を口にした。

「ヴィベク閣下…」と、ジュイレックは奥の部屋に駆け込んで言った。「信じていただきたい。ブラックゲートへの攻撃は、私のあずかり知らないところで行われたのです。もちろん、直ちに賠償をさせていただきたいと思います」彼は一瞬沈黙し、部屋の中に見慣れない人物がたくさんいるのに気付いた。「失礼しました、私はジュイレック・シロディールです」

「アルマレクシアです」皇太子が今までに見た中で一番美しい女性が名乗った。「こちらへお入りになりませんか?」

「ソーサ・シルです」白いマントをつけた厳格な面持ちのダークエルフが皇太子と握手し、椅子を勧めた。

「インドリル・ブリンディジ・ドローム、モーンホールド大公です」と、皇太子が席に着くと、隣に座っていた大柄な男が言った。

「先月に起こったことからもわかるとおり、帝国軍は私の指揮下にはないのです」皇太子はワインを注文し、話しはじめた。「帝国軍は父のものですから、まあ当然なのですが」

「皇帝陛下もアルド・ランバシへいらっしゃるのでしょう」と、アルマレクシアが言った。

「表向きはそういうことになっていますが…」と、皇太子は慎重に言葉を選びながら言った。「実際は、まだ帝都に残っているのです。不運な事故がありまして」

ヴィベクは公爵を見てから、皇太子のほうを向いた。「事故?」

「皇帝は無事なのです」と、皇太子は慌てて言った。「命に別状はないものの、片目を失明しそうなのです。この戦争とはまったく無関係の諍いの結果です。不幸中の幸いは、皇帝が回復するまで私が皇帝の代理になるということです。今、この場で結んだ条約は全て帝国を縛り、皇帝の代はもちろん、私が正式に皇帝になってからも効力を失うことはありません」

「それなら、さっそく始めましょう」アルマレクシアがほほえんだ。

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