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書籍

ルビーのネックレス

干し草の俵をもう1つ納屋の2階に運び上げたマークルは、また肩に痛みが走るのを感じた。筋肉のこわばりをほぐそうと、肩を回してみる。

「助かったよ。ありがとう」と、アルゴニアンの商人が言う。マークルはコスリンギ族に向かってうなずくと、荷車を引いてその場をあとにした。

あの商人が馬の飼い葉にする干し草を山積みにしてズークのもとにやってくるようになってから、もう数ヶ月になる。兄弟のフーグが生きている頃、その取引を仕切るのはフーグの仕事だった。運搬の手配、俵の荷下ろし、代金の授受。こういったことはフーグがやっていたのだ。ところが、そのフーグが病魔に取りつかれた。体が色鮮やかな発疹に覆われ、高熱が出たと思ったら、1週間と経たないうちに死んでしまった。

そして今はマークルがその商人との取引を仲介している。それにしても、筋肉痛がこれほど酷くなければなあ、とマークルは嘆いた。どう見ても、自分は死んだ兄弟のような力自慢じゃない。もっとがんばらねば、と自分を奮い立たせはするものの、本来、肉体労働よりも勉強や読書が好きなマークルだった。

「とにかく、帳簿を確認しないとな」マークルはそうつぶやきながら、自分の小屋に入っていった。兄弟が病みついて以来、ついつい帳簿をほったらかしにしていたが、さっき配達があった分はきちんとつけておかないとならない。

マークルが支払い台帳をひらくと、ページのあいだにはさまっていた紙切れが1枚、ひらひらと床の上に舞い落ちた。そこに書かれている文字が兄弟の筆跡だと気づいたマークルは、紙片を拾いあげる。

「ルビーのネックレスに気をつけろ」

マークルは眉根を寄せた。うちにはネックレスを買う余裕なんかない。それがルビーのものとなれば、なおさらだ。兄弟はいったいどういうつもりでこれを書いたんだろう? 肩をすくめると、マークルは紙片を丸めて机の横の火鉢に放った。それから外套を膝にかけ、たまった帳簿を片づけにかかる。今日はやけに冷えるなと思いながら…

その晩、細君が心配そうな表情でマークルの顔をのぞきこんできた。咳き込み、悪寒に震えながら机にかじりついている亭主を見つけた彼女は、なかば引きずるようにして床に就かせたのだった。マークルの喉には、紛れもない発疹がみみず腫れのようにつながって、首輪のようになっている。

「ルビー…」うわごとを口走りながら喉をかきむしるマークル。ナハテン風邪が一番新しい犠牲者に牙を剥いた瞬間だった。

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