スポンサーリンク
書籍

漂う甘い香り

先週から、空気に甘い香りが漂っている。父は、気にするなと言う。ここには甘いものなんて、もう長いことない。

父は気難しいオークだから、そう言うのもよく分かる。この村が金鉱の街だったことを父は覚えている。どんな約束も毒だ。だからもし空気が甘く香ったなら、それは罠で、卑劣な魔法だ。父はそう思っている。

でも私は甘い香りを感じる。夜、夢の中で感じる。ハニーサックルとラベンダーに包まれた恋人が、夜になると私の元にやってくる。彼は野生の花の王子。この隔絶した、死んだ街から私を連れ出すと約束してくれた。

もしできるなら、今夜彼と一緒に行こうと思っている。ここから遠く離れた場所へ行こう。でも、彼が夢の中にもう現れなかったらどうしよう? 彼の名前さえ知らない。

コメント

スポンサーリンク