モリアン・ゼナス著 シーカーたちは話せないかのように装っているが、そうではない。私は聞いたことがある。彼らは言葉を理解できるし、シューっというような異常な発音ではあるが口から発することもできる。どのようにしてそれを知ったか、語ることにしよう。 アポクリファに来てからは大体そうしているように、私はうかつにも注意を引いてしまった塔のように大きな半魚人の悪意に満ちた視線から逃れ、本の山の後ろに隠れて縮こまっていた。私は、自分がまだ早口で訳のわからないことを言っているのかと耳を済ませたが、それは聞こえなかった。つまり、私は言っていないということだ。では、私は何か別の音を聞いたのだ。 私が隠れている書物の山のすぐ向こうは、無数の壺で満たされたあの限りなくある部屋の1つ、それぞれの壺が不快な匂いの培養液の中に、死体から摘出された生きている「概念の臓器」を収納していると知ってからというもの、ひたすら避けている部屋の1つだった。あの壺は苦手だ。 入口から壺の部屋まで、あまりにも聞きなれたシーカーのピチャピチャいう足音がやって来た。だが、その後それは立ち止まり、そこで初めて聞いたのだ。シーカーが話す粘ついた声を。 「1つわかったことがある」シーカーがもつれる舌で言うと、恐怖の戦慄が私の背筋で踊った。 「知る価値があることか?」1番手前の壺の、うつろな、根源のない臓器の声が返した。 「自分で判断すればいい、浮かぶ者よ。莫大な歴史の多くの局面で、どうして定命の者の侵入者を見かけないのか分かったんだ。気の触れた魔術師は別としてな」 「お前は何もわかってない」と臓器が言った。 「古き先駆者が定命の者と契約を結んだんだ。いわゆる協定ってやつだ。これでもわかってないか?」シーカーが聞いた。 「わかってないも同然だ。ゴールデンアイだっていつも定命の者と協定を結んでる。私のこの酷い有様もそれ故だ」 「自分を哀れむのはよせ。でないとお前をからかってやるぞ。お前はからかわれるのが嫌いだよな。ちゃんと聞くんだ」 「わかったよ」 「実際、あの水晶占い師は定命の者と数多くの協定を結んでいる。だけど、定命の者とニルンで協定を結んだことはかつてない」 「フン。まさか」 「はっきり言うぞ! これは周知のことなんだ」 「どういうことだ?」 「公証人ウウ・ソラックスと第11の指導者が話し合っているのを聞いたんだ。彼らはあの薄明かりの中に入って来たんだ。俺が静かに…」 「探っていたら?」 「まあ、そうだ。それで、聞いてくれ。公証人が指導者に、不可避の知者は世界的な問題への直接介入を全て停止するという協定に同意している、と言っていたんだ」 「あり得ない。笑えるぜ。そうやって俺をからかえばいい」 「俺もそう考えた。指導者が否定的な態度を示したのと同様にな。だけどその後、公証人は「断じる言葉」を述べたんだ。本がそこら中に飛び散り、嫌な臭いの液が俺の耳から吹き出たよ。それで、彼の言ったことは知られていることだってわかったんだ」 「しかしなぜ? 定命の者にちょっかいを出すことと、彼らの知識をもぎ取ることは原初のデイドラの気に入りの娯楽だろう」 「どうやら彼は死ぬほど欲していたものに対して、莫大な代償を支払ったらしい。耳の負傷のせいで、それが何なのかはっきりとは聞こえなかったがな」 「それは知識だろ、当然。偉大な秘密だ。すごいものだよ」 「俺もそうだと思う。それにこの協定は双方ともに拘束するらしい。これが定命の者が来ない理由だよ。加えてシーカーもな」 「あの頭のおかしい魔術師を除いてな。どうやってここに来て、どんな邪悪な用があるっていうんだ?」壺の臓器が聞いた。 「わからん。だけどもし奴を捕まえたら、引っこ抜いてやろうぜ、奴の… 何の音だ?」 それは私にも聞こえた。だから逃げ出した。私はその音を知っている。それは訳のわからないことを早口で言っていた。
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