ESO > 書籍 > マラバル・トールの伝承
嵐がサラジャ船長の計画に予期せぬ変更をもたらした。彼女は海賊船の裂けた帆と折れたマストを見つめた。つい最近の略奪品が流されただけでなく、風がなくなり修理を終えるまで進めなくなってしまった。
「座礁したも同じですよ」。一等航海士のフルツが険しい顔で言った。
「船がいたら、乗ってる奴らに降りるよう話をつけるさ」と船長はしわがれ声で笑って答えた。「船は動けないがまだ浮いてる。お前は悪いことばかり考えてるな」
「だとしてもずっと… あれは船では?」
サラジャは振り返りニヤリと笑った。「未来の我々の船ってことだ」
フルツは距離を見て思慮深く言った。「そう遠くはない。ボートを降ろしましょう」
すぐに乗組員のカジートたちは船に乗り移る準備を整えた。砂州に錨を降ろしたその船は無傷なようだ。近づきながらサラジャは動きがないか船と空の境を見る。静かなものだ。略奪の機は熟した。
フルツが暗い船体をゆっくりと探りながら登っていく。仲間たちが綱を張り乗船できるよう、こちら側に警備がいたら彼が抑えなければならない。そっと甲板に上がると、フルツは船首と船尾にちらりと目をやった。警備はいない。手すりから身を乗り出して仲間に合図を送る。
次々と海賊たちが乗船し、武器を抜いて音を立てずに歩き回る。静かな船に全員が乗り込んだ。
「遊覧航海には大きすぎますね」とフルツが船長に囁いた。「それに武装の割に静かすぎる」
サラジャは船室の扉を示して頷いた。「あそこに隠れてるんだろう」と囁く。「我が船から降りてもらおうじゃないか」
ときの声を上げてフルツが船室のドアを蹴り破った。爪を出し武器を構えた海賊たちが彼に続くが、10歩も行かずに足を止めた。中は静かで暗い。
「どうなってるんだ?」
「早く! 明かりをくれ!」
海賊の1人がほくちと火打ち石を打つ。ゆっくりとたいまつを掲げると、室内いたるところにある鏡にほのかな明かりが映り込んだ。
「なんてこった! コスリンギだ!」
「コスリンギの死体だ!」
サラジャは壊れた船に戻るよう全員に命じるが、もう手遅れだった。紅き船を見て、生きて戻った者はいない。乗組員たちは見る以上のことをしたのだ。
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