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書籍

テンマール渓谷の観察

この地域は思っていたより人がいない。以前はある程度のカジートが居住していたことを示す遺跡はあるが、この渓谷に長く定住者がいなかったことは明らかだ。ここなら何も邪魔されず実験ができる。

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山頂の辺りに花が咲き誇っているようだ。灰や緑に明るい青が混ざっている。この時期に開花するのは珍しいが、標高の関係だろうか。研究所は洞窟のかなり奥にあるので、気が散ることはない。

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腐敗臭が風に運ばれてくる。研究所が腐敗臭で満たされつつあり、セレーンさえも蝕んでいるようだ。

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この辺りに最近死んだようなものは見つからなかったが、相変わらず腐敗臭が周辺に広がっている。山頂から流れ込んでくるようだが、かつてないほど山頂に鮮やかな青が見える。ニルンで最も悪臭を放つ花でなければ、あれが原因だとは考えられない。

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原因はその花だった。咲き誇る野の花と思われたが、まったく別物らしい。先ほど見た獣を参考にするなら、侵襲性の虫の群れだろうか。青みを帯びた雲が鳥の群れを飲み込むと、鳥たちは地上へ真っ逆さまに落ちた。

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ようやくセレーンが自発的に話すようになった。彼女はこの場所に病が広がっていると感じている。何ということだ。ここに残ればセレーンに危険が及ぶ可能性もあるが、数ヶ月分の研究を虫のために放棄することは考えられない。この先の行動を慎重に検討しなくては。

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