スポンサーリンク
書籍

マギル・シアナの日記

第二紀401年薪木の月17日

若きアントン王子が今日、父から王位を継承する。戴冠式の際にはシルヴィエ女王が付き添う予定だ。あぶり焼きの肉やケーキの準備を指示してある。召使達のことは誇りに思う。すでにどれを料理したか分からなくなったが、すべて時間どおりに出来上がるはずだ。

昨夜、若きアントン王子がやってきて、今夜の祝宴に私のロングフィンシチューをリクエストされた。宮殿の古株シェフとして、これほどの名誉はない。

第二紀401年薪木の月18日

「恥ずべき料理」についてシルヴィエ女王からスタッフの前で厳しい叱責を受けた。グローリアから、アントン王から直々に要請を受けたのだと、なぜ女王に言い返さなかったのか聞かれた。グローリアはもちろん、まだ若い。だから分かるわけがないのだ。目上の者には決して言い返さないのだということを。

1時間後にアントン王がやってきて、直に料理のお礼を言われた。きっといい王になる。

第二紀408年恵雨の月11日

夕方、シルヴィエ女王が逝去した。睡眠中に安らかに亡くなった。弱っている女王のために今夜料理を作るなんて食べ物の無駄使いだと考えたスタッフを叱ってやった。それでも料理はさせなかった。料理とは悪意を抱きながら作るべきではない。

代わりに、病気の女王の元に行き、何を作ればいいか聞いた。女王は朝まで持ちこたえられないことを自分で悟っているようだった。それでも彼女はかすかに笑みを浮かべて調子を合わせた。ロングフィンのシチューを頼んだのだ。

第二紀409年栽培の月27日

アントン王は暗殺者の毒矢を受けたが、命を取り留めた。スタッフは精を出して働き、早く回復してもらうように特に健康によい料理を作った。グローリアが不屈の精神と体力の薬をスープに入れているのを目撃した。彼女には自分の1週間分の稼ぎを渡してやった。いつかきっといいシェフになるだろう。もちろん、私がいなくなってからだが。

第二紀409年南中の月14日

アントン王は完全に回復した。早速、暗殺者の卑劣な攻撃をまともに受けた、忠誠なる召使であった執事長の葬儀を行なった。

調理場では、新しい執事長が誰になるかという話で持ち切りだ。グローリアは私がなるべきだと言った。馬鹿らしい話だ。

第二紀409年南中の月19日

グローリアには、思っていたよりも早く調理場で力を発揮してもらわなくてはならない。アントン王から、次の執事長になるよう頼まれたのだ。そんな役割のことはまったく分からないと言ったら、だからその職についてほしいのだと言われた。

王が話してくれてないことはたくさんあるだろうが、王の判断を疑問視するような立場ではない。

第二紀414年降霜の月30日

最近になってこの日記を見つけた。なんとも懐かしく、思い出に満ちている。また書いたら面白いのではないかと思い立った。ただの宮殿シェフだった日のが遠い昔のように感じる。

妻のグローリアは望んでいた以上の働きをしてくれるようになった。召使達から尊敬され、彼女は毎日そんな彼らを誇りに思っている。今なら王の判断が理解できる。どうして私が理解できないかも知れないようなこの仕事にうまく対処できるだろうと分かったのか。王の判断には今でも頭が下がる。

第二紀425年薄明の月22日

この古い書は多くのことを乗り越えてきた。今このベッドに横たわり、毒のせいで咳き込んでいる自分に、わずかながら喜びを与えてくれる。グローリアはそばで横たわっている。もし自分の体力を彼女に渡せるものなら渡している。王の食べ物に毒を盛った密偵のことは自分が倒れる前に始末したが、グローリアは食べた後だった。

アントン王は無事だが、グローリアは…

第二紀425年蒔種の月7日

グローリアは夜に永遠の眠りについた。召使の1人が、何が起きるのか知らずに食事を持ってきてくれた。グローリアが私のロングフィンシチューの作り方を召使達に教えていたとは知らなかった。

朝になると、その召使は粗野な食事について謝りに来た。問題なかったと伝えてやった。ロングフィンのシチューは女王にも出せる料理なのだ。

第二紀430年恵雨の月29日

今日、身体が震えて倒れてしまった。脚が動かなくなるほど年老いてはいない。忌々しい毒による症状だ! この書がベッドの下にあるのを見つけたのがせめての救いだ。

アントン王はこれを治すために、アイレイドの魔法による治療を試したがっている。王の判断は、これはいつものことながら、私が口出しをするものではない。王には新しい執事長がしっかり仕えているが、今でもこの老体の世話をしてくれている。

第二紀431年収穫の月12日

今日死んだと思う。うまく言えないのだが。歩き回ったり話したりはできるが、切り離されてるような感覚がある。身を捧げる王家を胸の中に感じられるし、ペンを持ってこうして言葉をつづる様子を召使が恐ろしそうに見ているのも感じられる。

このような霊魂の形をしていても、まだ王に仕えている。疲労はせず、若かりし日の自分に近い姿をしている。王の骨が塵になるまで仕えられる。その時には自分も同じになろう。

第二紀450年薪木の月11日

今日、王が逝去し、王は墳墓の中に封印される。私は王のガーディアンになることになっている。孤独は気にならない。召使達からは恐れられ、正直なところ彼らがそばにいても特に利点もない。

* * *

墳墓の中で時が流れ、インクも残り少ない。私は王家に縛りつけられ、かつての王と共に埋められている。彼の骨は粉になったが、私はまだ仕えている。この空洞の中で私に何をしろと言うのだ? 王の判断は本当に正しかったのか、それとも私がむやみに信じてしまっただけなのだろうか?

コメント

スポンサーリンク