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書籍

クラフトモチーフ7:カジート

タムリエルの主要な文化様式に関する小論集のための、アルフィディア・ルプス博士による覚え書き

(ルプス博士は帝国公認の民族誌学者として、第二紀418年~431年にかけて最高顧問サヴィリエン・チョラックに仕えた)

今朝教授の住まいを訪ねた私が真っ先にしたかったのは、ディヴァイスに謝ることだった。ところがセイフイジからあいにく留守だと言われた。ポータルのある部屋でなにやらまじないを唱え、どこかに行ってしまったという。あとには物が燃える匂いの他、何も残っていなかったとか。仕事を進めるのよと、私は自分に言い聞かせた。仕事が忘れさせてくれる。というわけで、私はモリアンを探しにいった。

教授は朝食中で、ちょうどスイートロールを食べ終え、チャルを飲み終わったところだった。私が台所に入っていくと、驚いたことに、彼はお辞儀をしようとあわてて立ちあがった拍子に、あやうくマグカップを引っくり返しそうになった。私は小論集ではカジートにも触れたい旨を告げ、あいにく猫族に知り合いがいないので、誰か紹介してもらえないかと訊ねた。教授はそれならうってつけの人物を知っていると請け合い、ちょうど今日は「あの癇癪持ちのテルヴァンニ」も休みをとっているし、喜んで紹介しようと言ってくれた。

それまでにも私は市場の門の外側に折々設営されるバーンダリ行商人組合のキャンプの前をよく通っていたが、中に足を踏み入れたことはなかった。あそこには近づかないようにという父の忠告がいまだに残っていることもあるし、鼻を刺すようなにおいが自然に足を遠のかせたということもある。けれどもモリアンは躊躇なくキャンプに入っていくと、色とりどりの祈りの旗で飾られた天幕に私を連れていった。あとについて天幕に入っていった私を、彼はマダム・シザヒ・ジョーに引き合わせてくれた。なんでも、アズラーとマグルスに仕えるカジートの妖術師だという。蓮華座を組んで座ったまま、マダムは恭しく頭を下げ――猫族の体はかくもしなやかなのだ――、床に敷かれた一組のクッションを勧めると、「この者」がどんなお役に立てますかと訊ねてきた。

マダムとの会話は楽しく、私たちはすっかり話し込んでしまった。カジートとレッドガードのモチーフやデザインには表面的に似通っている点があるが、これはおそらく、両者がいずれも暑く乾燥した土地に住んでいるためと思われる。しかし、レッドガードが長く、流れるような曲線を好むのに対し、猫族は円形と三日月形に愛着を示す。それは、マッサーとセクンダのすべての月相の形状が、カジートの衣類や装飾品のいたるところに現れることからも明らかだろう。鎌にも似た三日月の形はまた、カジートの手足の肉球からバネ仕掛けのように飛び出す鉤爪を思い出させる。目立たたないとはいえ、そんなものを四六時中ちらつかされては、気の弱い人はたまらないだろう。

マダム・シザヒ・ジョーはお茶をたててくれ(カジートの食べものや飲みものの例に漏れず、これもまたベタベタと甘ったるかった)、それから私のカップの底の茶葉を見るよう促した。彼女は桃色がかった鉤爪でお茶をかきまわし、私の悩みの種が分かったと言った。夫人によれば、私は臆病風に吹かれて本心から目をそらし、ふさぎの虫に取りつかれているのだという。私はディヴァイスにキスされそうになったことを、うっかり口にしてしまった。モリアンは自分のカップを取り落とした。飛び散ったお茶がマダムにかかったのは、気の毒としか言いようがない。

てっきり激怒するかと思いきや、モリアンはいかにも悲しげな表情を浮かべ、それから私に対する自分の気持ちを堰が切ったように話しだした。彼の言葉はとても情熱的で、私はすっかりほだされてしまった。カジートの魔術師が気を利かせて席を外してくれたので、私たちはクッションに座ったまま、それこそ何時間とも知れないほど話し続けた。

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