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書籍

至福

あのキャラバンで全てが始まったとき、私はそこにいた。いまだに旅立つことができない。出ていくことを考えるだけで、恐怖が体を麻痺させる。

もう1年近く前、私は魔術師ギルドのためにデューン原産の植物を調査すべくエルスウェアへ向かっていた。手厚く守られた大きなキャラバンと共に送り出された。旅慣れていなかったが、護衛や重い荷馬車の中で安心感があった。

出立からわずか4日後にその幻想は崩れ去った。朝に出発の準備をしていると、深夜の見張りが1人行方不明になっていると聞いた。仲間たちは当初、単純に仕事を放棄したものと考え(よくあることらしい)あまり気にしていなかったが、準備の過程で彼の荷物が見つかった。何が起きたのか気になりつつも我々は出発した。

日中、カジートの護衛の1人が道の先に何かがあると気づいた。彼が先に様子を見に行ったのだが、カジートが青ざめることがあるとすれば、戻ってきたときの表情はまさにそうだった。彼は何も言わずキャラバンマスターのところへ行った。少し詮索すると、我々の進む道に例の護衛の遺体が立たされていたそうだ。噂によるとそいつの喉を1本の矢が貫いていて、そこには「至福」と書かれていたらしい。

それは始まりに過ぎなかった。毎夜、また別の護衛が消えた。毎日、消えた護衛が進む先で発見され、同じように「至福」と書かれた矢で喉を貫かれていた。キャラバンは動揺に包まれていた。引き返すよう懇願する者もいたが、その頃にはデューンまで半分以上到達していたので、キャラバンマスターは聞く耳を持たなかった。誰一人眠らず、護衛は倍の数が配置され、周囲全体をキャンプファイヤーが照らした。だが、例外なく毎晩1人ずつ消え続けた。我々は常に動き続けることにし、シフトを組んで荷馬車の後ろで睡眠をとった。

デューンまであと2日というとき、私は浅い眠りから目覚め、荷馬車が止まっていることに気付いた。疲れた体を起こし荷馬車の横から頭を出して見渡した。周囲は死体だらけだった。残っていた全てのメンバーが、「至福」と書かれた矢に喉を貫かれ死んでいた。命のある者はいないかと次々と調べたが、やがて諦めてへたれ込んだ。誰、もしくは何がこんなことを? なぜ? なぜその言葉を矢に刻み込む?

そこからデューンに着くまでの2日間はあまりはっきり覚えていない。きっと私は見落とされていただけで、確実に見つかってやられると思っていた。だが今となっては話を広めるために生かされたようにも思える。誰も信じてくれなかった。街の衛兵を連れて惨殺の現場に戻ったが、何もなかった。1つの痕跡もだ。自分がおかしくなってしまったのかと思ったが、そこからわずか1週間後に報告が入ってきた。次々とキャラバンを襲い、「至福」と書かれた矢を使って残酷なゲームをたしなむ亡霊の射手の報告だ。

魔術師ギルドは私を探すため急使を派遣しているが、いまだにデューンを出て戻る気力がない。もう報告は何ヶ月も聞いていないが、恐怖に打ち勝ち出ていくことができない。

犯人はまだどこかにいる。間違いない。

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