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書籍

ヴェヤの個人的メモ(パート3)

闇の中で声がする

サマーセットへの旅が終わりに近づいているが、率直に言うとあたしは正気を失いつつある。それは、乗客の何人かが影から出てこないことに気づいた時から始まった。彼らは船の下層、最も暗い片隅に居続けている。あたしが彼らに気づくと、彼らもあたしに気がついた。彼らはあたしに話しかけてきた。周囲の闇に耳を傾けろと言う。影の母の声を聞けと。

気味の悪いフードをかぶった頭に刃を突き立て、海に投げ捨てようかと思う。そうすれば少なくとも、夜はもっとよく眠れるようになるだろう。だがなぜか行動に移せないでいる。気に入り始めたのかも知れない。あるいは思っていたよりも孤独だったから、不気味で頭のおかしい、影を這う者たちさえも、いい友人になりかけているのかも知れない。彼らには彼らの利用法があるのだろう。だがこの新しいことは? 闇の中の声? これに頭を悩ますようになってきた。

今は、本当に声が聞こえているわけではないようだ。だが気がついてみると、自分で自分に語りかけていた。時には誰かが言うことを聞いているように感じられることもある。こう書いてみると奇妙だけど、そのおかげで気分がよくなる時もある。

母さんが恋しくて、母さんと話しているのを想像しているだけなのかも知れない。この件に関して、母さんにまったく非はない。母さんは今どこにいるのだろう? 父さんを殺してから、母さんを直視できなかった。母さんは多くのことを経験した。正当だったかもしれないが、あたしの行動が引き起こす苦痛を見たくなかった。

* * *
いや、あたしは正気を失っているわけではない。夢を見ていた。喋るカラスや影の獣でいっぱいの夢。星まで届く塔。これは闇と変化の夢だ。新しい世界への機会の夢だ。

この言葉を読むと、あたしが恐れているように思える。そうではない。奇妙に聞こえるかも知れないけど、実に快適だ。それは影の淑女なのだろう。夢の中で語り掛けると、彼女はあたしの言葉を聞いてくれる。泣いている時は抱きしめてくれる。あたしを慰めてくれる。

この女性は、自分の母よりもあたしにとって母だ。誰も苦しみ、愛する人を失わないように世界を修復しようと、彼女はあたしに約束してくれた。

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