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書籍

干潮の章 第一巻

1.
夢も見ないある夜のさなか、私はおぞましい浜辺で目を覚ました。波はインクのように黒かったのに、私の皮膚も服も汚れなかった。立ち上がって口からインクを吐き出すと、私はこの海辺にまで来た記憶を一切持っていないことに驚愕した。岩にも、木の幹にも船はつながれていなかった。実際、見える場所には船などなかった。どんな船もあの暗く果てしない地平線に到達することはなかったのだ。その時、私の心の中で忍び寄る恐怖が形になった。私はまだ海辺の向こうの陸地にまで目を向けていなかった。なぜか、私の足首に囁き声のように打ちつけるこの暗く果てしない海の波は、私の背後で燃えている甘ったるい秘密よりも安全な気がした。

2.
私の父と似ていなくもない声。あの震えるテノールは私を簡単に怯える子供に変えてしまう。今でさえ足首の力が抜けるのを感じる。それとも、足元の砂が私の躊躇に苛立って、突然絡みついてきたのだろうか。だが声はまだ続いている。その言葉は私の心の筋を辿る指のようだ。私の名前は口にされなかったのに、声の命令は私の名を無言のうちに引き連れていた。「振り向け」と。だから私は振り向いた。

3.
私の前に浮かんでいたのはシーカーだった。インクの滲んだボロ切れと握りしめる手で作られた存在。アポクリファの拷問を生き延びた学者の、震える手で書かれた文字でしか読んだことのない生物。突然、私は悟った。アポクリファ。シーカーの恐るべき姿の向こうにあったのは、果てしない場所だった。触手とインクの泡立つ粘液。光を放つ植物と膨れ上がった書物。うず高く積み上がった化石と、歓迎しない眼差しのように重く垂れ下がる空。突然、私は波の中に消えてしまう以外のことを望まなくなった。だが声が戻ってきた。「恐れるな」。だから、私は恐れなかった。

4.
シーカーはその多くの手の1本を差出し、私はためらうことなくそれをつかんだ。シーカーが私を連れて海辺から去っていく間、私は急に子供のような気分になった。小さく脆く、新たな案内人にまったく依存している。それに今、シーカーは静かだった。私の心の水源には何の言葉も流れてこなかった。化石の積み上げられた丘にたどり着いた時、私はもう少しで子供っぽい怒りに我を忘れるところだった。穴だ。いや、塔だ。逆転。「蔵書庫」。だがそれだけではなかった。それは贈り物だった。

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