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書籍

2920年、第6巻

2920: 第一紀 最後の年

カルロヴァック・タウンウェイ著

2920年 蒔種の月15日
カエル・スヴィオ (シロディール)

皇帝レマン三世は、丘の上の見晴らしの良いところから、帝都にそびえる尖塔をじっと見ていた。彼には自分が温かい家、故郷から遠く離れた地にいることが分かっていた。この地の領主、グラヴィアス卿の邸宅は豪華なものだったが、帝国軍を敷地内にまるまる収容できるほどのものではなかった。山腹に沿ってテントが並び、兵士たちはみな卿自慢の温泉に行くのを楽しみにしていた。それもそのはず、そこにはまだ冬の空気が立ち込めていた。

「陛下、ジュイレック皇太子のご気分がすぐれないようです」

ヴェルシデュ・シャイエに声をかけられ、皇帝は飛び上がった。このアカヴィリが草地の中、一切の音を立てずにどうやって近づいてきたのか不思議だった。

「毒に違いない」と皇帝はつぶやいた。「早急に治癒師を手配しろ。いくら給仕が反対しても、息子にも私のように毒味役をつけるのだ。いいか、我々の周りには密偵が大勢いることを忘れるな」

「そのように取り計らいます、陛下」とヴェルシデュ・シャイエは答えた。「現在 政局は非常に不安定でございます。モロウウィンドでの戦いに勝利するためには、戦場に限らず、いかようなる手にも用心するにこしたことはございません。それ故、私が申し上げたいのは、陛下にこの戦いの先陣から退いていただきたいのです。陛下の輝ける先人、レマン一世、ブラゾラス・ドール、レマン二世がそうしたように、陛下も先陣を切りたいというお気持ちは重々承知でございます。しかし、あまりにも無謀ではないかと思われます。私のような者の言葉にどうかお気を悪くなされないでください」

「さようか」と皇帝はこの意見に賛同の意を表した。「しかし、それでは私の代わりに誰が先陣を切るというのだ?」

「お身体が回復されれば、ジュイレック皇太子が適任かと。もしだめなら、左翼にファーランのストリグとリバーホールドのナギー女王を、右翼にリルモスの族長ウラチスではいかがでしょう」とシャイエは言った。

「左翼にカジート、右翼にアルゴニアンをあてがうだと?」と皇帝は顔をしかめた。「私は獣人を信用しておらん」

皇帝の言葉をアカヴィリはまったく気に留めなかった。皇帝の指す「獣人」とはタムリエルに住む原住民を意味するものであり、彼のようなツァエシとは別であることを十分に承知していたからである。「陛下のお気持ちは分かります。しかし、彼ら獣人がダンマーを嫌っていることをお忘れなく。特にウラチスは領民がモーンホールドの公爵率いる軍隊に襲われて奴隷にされたことを恨んでいます」

それを聞いた皇帝は渋々納得し、ヴェルシデュ・シャイエは下がっていった。皇帝は驚いたが、この時初めてヴェルシデュ・シャイエが信頼に足る人物、味方として優秀な人材であると思えた。

2920年 蒔種の月18日
アルド・エルファウド (モロウウィンド)

「今、帝国軍はどのあたりに?」と、ヴィベクは尋ねた。

「2日の行軍でここへ辿り着きます」と、副官は答えた。「我々が今晩夜通し行軍を進めれば、明朝にはプライアイの小高い場所へと辿り着けるでしょう。情報によりますと皇帝は軍の殿を務めることになり、ファーランのストリグが先陣を、リバーホールドのナギーとリルモスのウラチスがそれぞれ左翼と右翼につくそうです」

「ウラチスか…」とヴィベクはつぶやいたが、ある考えが浮かんだ。「ちなみにその情報は信用してよいのだな? その情報はどうやって手に入れたのだ?」

「帝国軍に潜んでおりますブレトンのスパイです」と副官は答え、砂色の髪をした若い男に、前に進み出るよう促した。ヴィベクの前へ出たその男は頭を下げた。

ヴィベクは微笑んで、「名はなんと言う? なぜにブレトンがシロディールと戦う我が軍のために働くのだ?」と尋ねた。

「私はドワイネンのキャシール・オイットリーと言います。この軍のために働いているとしか申し上げられません。諜報活動を行う者はみな神のために働いているとは言いかねるからです。はからずも私はこの仕事のおかげで食べていけております」と男は答えた。

ヴィベクは笑って、「お前の情報が正しければそうであろうな」と言った。

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