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書籍

狩人の真実、パート3

セリエルは身をかがめて山林を移動した。獲物として狙う雄ジカの足跡を探した。数分、いや数時間? 彼女には分からなかった。もう追跡しか残されていなかった。

セリエルが小川を見つけたとき、自分がどんなに疲れているか初めて気が付いた。先ほどの一匹狼との戦いは、思った以上に彼女を消耗させた。冷たい水に手をつけて飲み始めた。しばらくの間目をつむった。

何度かしばらくすすった後、彼女はもう一度目を見開いた。何時間も追跡した雄ジカが5歩離れたところで、まったく同じ小川で水飲みをしている。セリエルは凍りついた。

雄ジカは一瞬セリエルを見つめたようだった。そして空へ向かって立ち上がり大地へひづめをたたきつけた。

セリエルは後方へ跳び下がった。弓を引いて矢をつがえた。雄ジカはもう一度立ち上がった。セリエルは息をひそめた。雄ジカは彼女に目を向けたまま跳躍してきた。セリエルは数えた。1、2、3――

雄ジカはひづめを下げ、踵を返した。セリエルはその後ろに3匹の小さな雄ジカを見た。動くことはできなかった。今度は雄ジカが彼女に向かって静かに歩き、弓をつついて押しのけた。

躊躇しつつもセリエルは手を差し出した。雄ジカは彼女の手を優しく舐めた。そして鼻を鳴らし、山林へと歩いて引き返した。小さな雄ジカ達は後を追って行った。セリエルはそうしなかった。

*****

彼女は絶壁の頂へと戻った。狼は同じところにいて、ハイエナには食べられていなかった。彼女は皮を剥いで肉を収穫し、荷物に詰め込んだ。そうして長い家路についたのだった。

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