ペガリーム著
私たちの馴れ初めについて聞いて来る人が少なくない。まるで、アルゴニアンにはエルフのような人生の喜びが経験できないとでも言いたげに。
信じられないような話だけど、私が夫と巡り合った経緯は一風変わっていた。私はヒストが私たちに語りかけたに違いないと思っている。2人が出会って恋に落ちざるを得ない場所に、必ず集うようにと。それまで私は心の奥底で、きっと一生結婚しないだろうと信じていた。
きっかけは思わぬ時に訪れた。私が雑然とした店内をできるだけきちんとしようと商品を片づけていたとき、突然、私自身の声が心に響くのが聞こえたのだ。「彼を待つのよ」。
「何を待てですって?」片づけに没頭していた私ははっと我に返り、思わず声に出していた。
答えはない。
めったに物に動じない私も困惑し、急に振りかえった拍子にランプを倒してしまった。火のついた油が弧を描いて部屋の向こうに飛んでゆく。
油は部屋じゅうに飛び散った。積み重ねた生地の束、散らかった紙、床のあちこちに落ちている藁…。一瞬にして、慎ましい光源が物で一杯の部屋を燃えさかる炉に変えた。
天井から吊るした干しハーブを真っ赤な炎の舌がチロチロと舐めるのを見て、私は熱と煙が渦巻くなか、自分が呆然と立ち尽くしているのに気づいた。
そのときほど小屋が広く思えたことはない。煙で暗く、炎だけが明るく輝く小屋のなかの空気は、木がきしむ鈍い音に満たされていた。私は目をすがめて炎と煙を透かし見、手で口を覆うと、よろめく足取りで、遠ざかっていく一方の扉を目指した。
「誰かいないの? 誰か?」
「いるとも!」
私が戸口にたどりつくと同時に勢いよく扉があき、その瞬間、炎がほとんど喜びを爆発させるかのように上に向かって噴出した。そのとき黒い腕が私の腕をつかみ、私を外に引っ張り出して小屋から遠ざけた。
「怪我はないか?」
咳き込みながら、私はかぶりを振った。「大丈夫よ。でもお店が…」
二人とも後ろを振り返った。小屋のなかに閉じ込められて荒れ狂っている炎は、湿ったわらぶき屋根という好敵手に出会っていた。
「助けてくれてありがとう」私はそう言って、命の恩人にようやく向きなおった。
目を合わせた瞬間、2人はすべてを悟った。ヒストがお互いを相手に選んでくれたこと。そして二人とも、もうそれ以上待つ必要はないことを。
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