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書籍

タズゴルの幻視の追及

タズゴル・グロベトニクはまだ3度も戦っていないうちに、ベトニクの断崖絶壁を登った。海の向こうに広がる世界の果てまで見通せるほどの高みまで登ってやろうと思い立ったのである。

食べものも飲みものも持たずに登攀を始めた彼は、岩壁の裂け目に溜まる雨水を飲んで渇きを癒やし、鳥の高巣からくすねた卵を食べて飢えをしのいだ。

タズゴルは3日かけて頂に到達し、そこで3日間、体を休めた。

その間、モーロッチが彼に次のような幻視を見せた:

タズゴルは1匹の大蛇が3つに切り刻まれ、ひとまわり小さな3匹の蛇になるのを見た。

3匹の蛇は世界を3つに分けあった。

1匹は地を這い、それからこう言った。「私は大地と、そこで育まれるものすべてをもらう」。

別の1匹は深淵を泳ぎ、それからこう言った。「私は水と、それを飲むすべてをもらう」。

3匹目は翼を生やし、それからこう言った。「私は空気と、それを呼吸するすべてをもらう」。

それぞれが宣言通りにするやいなや、3匹の蛇は諍いを始めた。考えてみれば、大地から生まれない生きものなど存在するだろうか? また、水を飲まない生きものなど存在するだろうか? あるいは、空気を吸わない生きものなど存在するだろうか? だから、3匹の蛇はそれぞれ、自分がほかの2匹を支配すべきだと考えたのである。

やがて諍いは三つ巴の争いとなり、結局は3匹とも息絶えた。

タズゴルは自分の目で見たその光景に困惑し、断崖絶壁から降りて賢者スルガに打ち明けた――モーロッチにこんなものを見せられたと。

それまでも数々の幻視を解釈してきた賢者スルガは答えた。「その幻視には2つの教訓が込められているね。1つは、統合なき分裂は致命的だということ」

「でも、どうしたら分裂と統合が両立するのですか?」タズゴルが訊ねた。

「未熟者が訊きそうなことさ」賢女は吠えるように答えた。「たとえば族長の3人の妻たちは互いに憎み合っていながら、族長のことは愛している。だとすれば、彼女たちは同じ願望を共有していると言えないかい? また、若いオークが族長に挑戦するとき、そこには分裂があり、新しい族長が勝ち名乗りを受けるとき、そこには統合があるのではないかい? だからこそ、自分たちが3匹の別々な蛇ではなく3つに分かれた1匹の蛇だということを忘れた結果、彼らは滅んだのさ」

「でも、どうしたら分裂と統合を維持できるのですか?」若い戦士はいぶかしんだ。

賢女は笑いをかみ殺した。「それこそがお前の見た幻視に込められた2つ目の教訓だよ。つまり、過去を忘れるなということさ」

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