こうした古い墓所は、執筆のためのインスピレーションを与えてくれるはずだ。ここにはグレナンブラで活躍した古代の英雄たちが葬られている。彼らなら、肉付けして膨らますことができる興味深い事績の1つや2つはあるに違いない。それらが私にしかるべき名声をもたらし、最終的にはどこかの貴族のお抱えとして安穏と過ごせる地位を用意してくれるだろう。 公爵や女公爵の後援こそが、文筆家としての私のキャリアを前に進めるために必要なものなのだ。三度の食事。雨露をしのぐ屋根。文章を読むことができる人々との会話… * * * ここに葬られている故人たちについては、ほとんど情報がない。グレナンブラの王ドネル・デレイン? 初耳だ。しかし、読ませる話にすることはできる。英雄に仕立てあげればいい。忠実な戦士の一団を付き従わせるのがいいかもしれない。降りかかる火の粉は断固として振り払う猛者集団だ(メモ: 参考として、第一紀にグレナンブラで起きた重要な合戦を調べること)。 * * * これを核にすれば、シリーズものが書けるかもしれないぞ! 英雄には、それぞれ物語がある。私が目を通した古い歴史書には、このデレインなる人物に関する言及はなかった。「黄金の王子」や「象牙の王」などと呼ばれる人物についても同じだ。彼らの物語は時の彼方に失われてしまっている。 * * * 勇壮な戦いのシーンはふんだんに。ロマンスも多少はあっていいかもしれない。私は「エメラルドの姫」の墓を特定した。もちろん、美人でなければならない。このうえなく純度の高いエメラルドと同じ色の瞳。おまけに勇敢な戦士でもある。彼女と王を悲恋の物語の主人公にしようか。なに、ほんの少し脚色するだけでいい。結局のところ、私はくだらない恋愛ものなど書きたくないのだ。これはリアルな歴史絵巻でなければならない。ただ、ほんの少しだけ話を盛る。この作品で、きっと私の名は知れ渡ることになるだろう! なにより、この作品はあの売文家フェラリ・コを青ざめさせるだろう。「面白ミステリーの巨匠」だと? ふん。私に言わせれば、もったいぶった猫の殴り書きにすぎない。奴のしていることは、荒唐無稽な冒険譚をでっちあげ、「ミステリー」とやらの次回作を売り込んでいるだけだ。私なら、はるかにうまくやれる!
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