書籍

正しい拷問技術 第8巻

苦悶の女公爵著

定命の者の弱点、愛

定命の者の特性の中でも特に理解しづらいものの1つが、「愛」として知られる感情です。
これは定命の者が他の定命の者に対して作り上げる、不合理で無条件の好意です。
主の領域の住人にはなじみのないこの状態は、拷問官にとってもっとも理解しがたく異質の概念ですが、この感情の中には、この状態を作り出すことで拷問対象を我々の意志に従うよう操れる多くの方法が潜んでいます。

愛とはとても強大な力です。
愛を通じて多くの定命の者たちが偉大で勇敢な行為を見せます。
愛はさまざまな抽象概念にも向けられます。
帝国への愛、信じる神への愛、故郷への愛。
これらは取るに足らない感情であり、拷問方法としては効果が大きくありません。
抽象概念への愛を操ることは平常時の定命の者を堕落させるには最適ですが、拷問部屋で情報を引き出すためには向いていません。

愛を効果的な拷問方法として使うのなら、定命の者から別の定命の者への愛の方がはるかに強いため、対象の操作には最も効率のよい強い力となります。
抽象概念への愛が定命の者の心の中に存在する一方、他者への愛は物理的な領域に存在します。
実際に触れることで定命の者の魂への影響は拡大されます。
定命の者がたとえばパン職人という自分の仕事を愛していたとしても、その愛を明確にするものは存在しません。
この愛情とは彼の心的能力の中のさまざまなものがより合わさった複雑な糸なのです。
しかし子供が母を愛する場合、彼にとって母は1人だけ。
それが奪われたとしたらその愛で満たすべき場所は空っぽのままです。
そのため、正しい拷問官は定命の者の魂を効果的に拷問するため、他者への愛に注目すべきなのです。

ここにまだ疑問はあります。
他者への愛をどうやって拷問の手段とするのか。
その答えは偏に拷問される魂とその愛の対象との関係によります。
家族の愛は同じ家族間での愛であり、それを失う概念を強めるのが最も効果的です。
母親が子を愛しているなら、その子を失うことに耐えられないでしょう。
故に母親に子の姿を見せ、それをたとえば死や誘拐などで奪えば、効果的な拷問手段となります。
友人との愛ならば、その友人に代わって絶えず繰り返す裏切りや明らかな背信を演じるのが最適です。

もし他者に秘密の欲望を抱く定命の者を拷問官が見つけた場合、特にそれが肉欲的愛情であるが遂げられない思い、定命の者が「報われぬ恋」と呼ぶものであった場合、その拷問官は最も魅力的で強力な手段となる愛を手に入れたことになるのです。

定命の者のちっぽけな自己認識と欲望をかなえるという無駄な欲求は、定命の者という存在の特徴です。
己の目標に到達するという時には一生ものの野心が、多くの定命の者にとっては短く結局は無意味な人生の原動力となるのです。
たとえむなしい偽りであっても、その報われない欲望をわずかでもかなえると定命の者に持ちかければ、彼らの野心の核心を突き根本的な感情の欲求をかき立てることになります。
拷問官が犠牲者の衝動をかき立てられれば、拷問の成功は約束されたも同じです。

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