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書籍

ロスガーからリルモスへ:ある鍛冶師の物語、第三巻

熟練の鍛冶師ガルノザグ著

アルゴニアンの「鍛冶場」は奇妙な場所だ。
鍛冶場というより作業所に近い気がするな。
この場所に入った時、故郷で馴染んでいた音や匂いには全く出会えなかった。
金床を叩く音も、石炭の煙も、冷却用の桶がジューっという音もなし。
不気味なほど静かで、ノミや斧、変な液体が入った木の桶、積み上げられた石、死んだ鳥、生きたナメクジ…こういったものがたくさんある。

最初の1週間ぐらい、俺はシュケシュの作業所で居心地悪く感じた。
彼女はあまり口数が多いほうじゃない。
最初の数日の間に彼女が出した唯一の音は、何かが完璧に計画どおりにいかなかった時不意に出てくる、イラついたシューシュー声だった。
古いジェルの民謡もいくつか歌ってた。
もっとも「歌」と呼べるのかどうか分からんが。
初めて聞いた時、彼女はそこらじゅうをうろつきまわってるトカゲを殺してるのかと思った。
ここはあいつらの巣窟になってるんだ!

そのうち、シュケシュは俺に話しかけてくるようになった。
最初の頃の話は大抵、俺に鱗がなくて不愉快だとか、俺の目がビーズみたいに丸いとか、そういうことだった。
彼女が俺を馬鹿にし始めた瞬間から、すぐに仲良くなれると分かったよ。
シュケシュが教えてくれた最初の秘訣は「ナメクジ型」の技術だった。
どうやらブラック・マーシュには大量のナメクジがいるらしい。
俺の故郷でこのねばねばした生き物はあまり見かけないし、見かけてもすぐに踏み潰して、ブーツが汚れたのを不快に思うぐらいだ。
だがここリルモスでは、どんなものにも意味がある。
大半のナメクジは食料にしかならない(聞いた話だ。俺は4つ足でないものは食べない)。
だが一部のナメクジには驚くべき使い道があるらしい。
そういう特別なナメクジの一種は「ジャッサ・レッド」と呼ばれ、一風変わった防衛手段を持っている。
脅威にさらされると、このナメクジは酸性の粘液を噴出させる。
食べられそうになった時にそれがどう役立つのかはよく分からんが、この酸性の粘液はアルゴニアンの武器職人にとって有用なのだ。

シュケシュが自然の意匠を作品に組み込みたい場合は、このナメクジを木や石の上に置いて、ナメクジのすぐ後ろで繰り返し火打ち石を打ち合わせる。
火打ち石の位置を調節すれば、ナメクジを様々な方向に押しやれる。
ナメクジは木や石の上を動くにつれて酸性の粘液の細い線を跡に残し、長くなめらかな道が素材の上にできていく。
粘液の働きは使われる素材によって異なる。
粘液の作用は自然の着色料にもなり、その色は薄茶色から輝く黄色まで様々だ。

シュケシュは試しに俺にやらせてくれた(何の価値もない割れた材木で)。
予想はしていたが、俺は下手だった。
俺はグチャグチャな溝を作ってしまった。
それも全部不気味な緑色の斑点に染まって。
気持ち悪くなって火打ち石を投げ捨てたら、シュケシュは笑ったように思えた。
本人はただの咳払いだと言って、このナメクジ型は完全に「ラジプ」だと言った。
ラジプというのが何なのかよく分からなかったから反論はしなかったが、推測はつく。
とにかく、俺には皮膚を焼く鼻水のねばねばした塊より、金槌と鋏のほうがずっといい。

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