ESO > 書籍 > シャドウフェンの伝承
彼女には、月光の閃きしか見えなかった。それが鋭い直線となって傍らに立つ男を射抜いたと思ったら、次の刹那、男はうめき声を漏らしてがっくりと膝をつき、そのまま横ざまに倒れていた。
「八大神の名にかけて、一体全体どうなってるの?」恐怖に駆られたローミンガはつぶやいた。が、それ以上言葉を継ぐことはできなかった。鱗に覆われた手で、口もとを覆われたからだ。
「これでカタはついた」低い、しわがれ声が言う。と同時に、ふわふわした灰の塊が空気を満たし、ローミンガは咳き込んだ。このアサシンはなぜ私を殺さないんだろう?
灰の霧が晴れると、ローミンガはその場に自分しかいないことに気づいた。傍らの地面に残った血の染みだけが、相棒が息絶えた場所を示している。目が暗さに慣れるのを待って、彼女は注意深くあたりを見まわした。やはり誰もいない。ローミンガは自由な両手で顔を覆い、祈りを唱えた。
「カイネよ、わが女神にして導き手よ。トカゲ族の魔手から救ってくれたことを感謝します。必ずや奴らを根絶やしにせねばなりません」
「よく言った。ではその報いを受けてもらおう」
刃に肉を貫かれる感触を覚えた次の瞬間、傍らにアルゴニアンが現れた。ローミンガは口を動かすが、声にならない。アルゴニアンの武器が突き刺さった喉に、思わず両手がいく。
「お前が一味だという証拠はなかった」アルゴニアンはローミンガのシャツで刃を拭ってから武器を鞘におさめた。「やむなく引きあげようとしたところで、お前が自ら罪を認めてくれたのは助かったよ。そうでなければ、すぐにまた別のシャドウスケールを送り込むはめになるところだった」
ローミンガがくずおれるのを見ながら、シャドウスケールの暗殺者は付け加えた。「今やわれわれは全員がパクトに加わっているのだ… お前たちのような裏切り者以外はな」
言い終えると暗殺者は姿を消し、ローミンガも息絶えた。
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