キャラバンはホロウ・ウェイストにたどり着いた。車輪はうなる砂漠の風の下できしんだ。 鎖と皮を着込んだ傭兵は、動かぬ日の下でうだるような暑さを呪った。 彼らがぶつぶつ罵るのを聞きながら、イーテラーは信頼するセンチネルのラハドに感謝した。屈強なレッドガードは、砂漠で培った実用性を備えていた。 「軽装になれ」彼は言った。「アリクルではゆるく編んだチュニックがいいだろう。たくさん着込めばたちまち、魚屋の鍋でゆでられるドゥルー・シュリンプより早くゆであがるぞ」 彼女は助言を聞き入れ、リネンと過酷な熱さの中でも身を涼しく保つ魔法の腕輪だけを身に着けていた。 荷馬車は車輪をゴロゴロいわせながら吹きさらしの峰の頂上に達すると、地響きを立てて停止した。 イーテラーは好奇心にかられて馬からおりた。隊の先頭へと進むと、急な停止に困惑する商人が直射日光を防ぐ日よけから顔を出した。 「友よ」ラハドは先頭を通り過ぎようとする彼女に言った。「多くの海岸に旅したことがあるだろう。教えてくれ。このような光景を見たことがあるか?」 話しながら彼は眼下にある谷への道のほうを示した。焼けた石と曲がりくねった小道の中に巨大なアラバスターの槍が、峰と峰の間全体を何マイルにもわたって砂から厚い芝の上に落ちた矢のように突き出していた。 「あれは何なの?」彼女は冷静さを取り戻して聞いた。 「聞きたいのはこっちだ」彼は言った。「いつもだったらこの道の先はどこまでも続く砂丘でしかない。いったいどれくらいの間埋まっていたんだろう」 イーテラーはこれが利益を生むと考え、一晩この場で野営することを主張した。正午の日差しから一時的に逃れて喜んでいた傭兵は、過酷な旅の中で休めることを大いに喜んだ。 夜になり、彼らは早暁まで大騒ぎしていた。周りの遺跡で何かあっても、騒々しくて気づきもしなかっただろう。 夜明けにはイーテラーとその相棒が、槍の間を進み入口を探していた。昼頃になり、ようやく入口を見つけた。 「ここだ!」ラハドは興奮を抑えきれないといった声で叫んだ。「入口はここだぞ!」 イーテラーは友が何かを見つけた方へと駆けだし、石の角を曲がった。だが彼女を迎えたのは、恐ろしい光景だった。 隙間から繰り出された槍に力なくぶらさがっていたのは、ラハドだった。彼の剣は鞘から抜かれ、近くの砂山に突きささっていた。 恐怖で口を開けたまま立ちすくむ彼女の前で、ラハドは放り出され、砂山で覆われた遺跡の入口から鱗で覆われた大きな頭が出てきた。その生物はすばやく動いてラハドをかたわらに放り、武器の血を拭い始めた。 イーテラーは信じられず頭を振った。大声を出そうとしたが、言葉を発すると同時にその生物に殺されるだろうと思った。ゆっくりと、注意深く、彼女は後ずさりしはじめた。うまく逃れられると思われたが、3歩目が地面についた瞬間その生物が振りかえった。 素早く矛先をかわしたものの、イーテラーは突然はじまった大音量の音楽で何も聞こえなくなった。耳をかばって手でふさいだが、敵の攻撃に彼女はつまづいた。 敵は肋骨が倍になるほど肺いっぱいに息を吸い込みながら身をもたげ、複数のトーンが加わりコーラスになった。キーキーいうハーモニーが砂の中に鳴り響き、遺跡からばらばらと砂が落ちた。敵が動くと彼女の下にあった石が崩れ落ち、彼女は敵の前に投げ出された。 彼女には、柄頭まで砂に埋まったラハドの剣を手に取るのが精いっぱいだった。攻撃が可能な距離から、彼女は悪鬼の黒ずんだ口に剣をいきなり突きたてた。鋼が頭蓋骨に達すると、その声は小さくなりはじめた。 その瞬間、敵は単純な真実に気がついた。もはや血肉を求めてはいなかった。もはやまったく、何も欲してはいなかった。「なんとすばらしい!」地に倒れこむときに思った。その爬虫類はできることなら笑っていただろう。 ラミアが崩れおちると、そのフックのついた槍がイーテラーをとらえた。冷たい鋼を感じ、彼女はバランスを崩した。一瞬態勢を整えられるかに見えたが、彼女が立っていた石が突然崩れた。 暗闇に落ちた彼女は砂の雲の中で浮かんでいた。凹凸のある石や槍のような石が下から見上げていた。 まぶしい砂漠の空が見えなくなったのに、きらきらする光に囲まれていることに気づいた。きらめく星が一面にあったが、地下に星があるはずがない。それはアイレイドの輝くクリスタルだった。 落ちた時間は数日経ったかのように感じられた。彼女の側にあるのは、暗闇にまたたく光だけだった。「この小さな星を少しでもつかめたらいいのに」手を伸ばしながら彼女は思った。「この星のように、空気のように軽くなるかもしれない、そしてこの世界から出るの」。 下のほうではささやき声がさらさらそよぐ風のような音になった。下を見ると、地面はもうそこだった。暗闇が近づいていた。
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