記憶がこれほど匂いに深く結びつくのは不思議なことだ。ふとジャズベイの香りが漂ってきただけで、私は小さい頃を思い出す。
冬の季節が近づき、空気が冷えてきたとき、私のクランマザーは育ちの悪い小麦と、傷がついたり熟しすぎたりしたベリーでタルトを焼いてくれた。パサパサで歯に付く甘いお菓子。でも私も含めて若者は最後の一口まで味わって食べた。タルトは吉兆だった。冬への備えがたっぷりあって、残飯を倹約しなくていいという証。
ある冬、私はこのお菓子を籠に入れて長老のところへ持っていく役目を与えられた。丘を登っていくお使いで、頬に当たる空気が鋭かった。籠は私の両手に重くのしかかり、目の前で自分の吐いた息が揺らめいた。長老の小屋から出る煙からあと少しのところで、私は多分一休みしたと思う。その時、小さく弱々しい吠え声が聞こえた。
茂みの陰から覗いてみると、道の反対側に小さな狐がいた。とても小さく見えた。赤ん坊だ、道に迷って凍えて、お腹を空かせているんだと思った。私は籠に手を伸ばし、タルトを一切れ細かく砕いて、狐に向かって放った。
狐はビクッと震え、逃げ出しそうになったが、小さな鼻が動くのが見えた。タルトの匂いに気づいたのだろう。恐る恐る最初のかけらを食べたが、子供の私には美味しいと感じているように見えた。狐はあっという間に残りのかけらを食べ尽くした。その時私は傷跡に気づいた。足首の周りに細い線がいくつもあり、毛皮に沿って小さな切り傷が付いていた。一体いくつの罠から脱出してきたのだろう? 私が仕掛けた罠もあったんだろうか?
私が思いを巡らせていたその時、狐が私の籠を目がけて飛びかかり、持ち手の部分を器用に歯でしっかり咥えて、森の中に逃げ去っていった。
私は驚愕した。騙された。あれは弱った哀れな動物ではなく、抜け目のない盗賊だったのだ。私はできる限り素早く狐を追いかけた。枝や茂み、分厚く積み上がった雪を避けて川の土手を滑り落ち、降りた先で中が空洞になった木の幹を発見した。
中にいたのは盗賊狐と、子狐の群れ、そして私に向かって歯をむき出す細い母狐だった。
私は両の掌を上げて母狐に向け、地面から体を起こし、ゆっくりと木の幹から離れた。母狐は警戒を解いたので、私も同じようにした。私は母狐が子供たちの世話をするのを見ていた。タルトを足先で砕いて小さくして、子供たちが食べられるようにしていた。
どれだけ長く見ていたかはわからないが、クランマザーが恐怖に顔を赤くして、茂みを突き抜けて現れた時、母狐の耳がピンと立ったのを憶えている。彼女は私が長老の小屋に来なかったことを知って、獣に連れ去られたと思ったのだ。私はシッと合図して「赤ん坊が怖がっちゃう」と言ったが、彼女は怒って歯をむき出しにして、私を叱った。
自分にも母狐がいたことを知るのは、何とも奇妙な気分だった。
四つん這いになってスコラリウムの本の山をかき分けてジャズベイの匂いを辿りながら、シャルが入ってきて見られませんようにと祈っている時、私はそれを思い出した。特に埃の酷い四則演算に関する本の山をどかした時、私は実に奇妙なものを見た。狐だ。前足を私の机の上に置き、私が文鎮として使っていた小さなフェアライトを鼻でつついていた。
その途端私は子供の頃に戻り、ゆっくりと地面から体を起こし、驚かせないように両手を空中に掲げた。狐は私を見て頭を横に向け、微笑んだ。突然狐はフェアライトをその口に咥え、本の山をすり抜けて走り去った。
もし私が狐を追う訓練をしていたことを知っていたら、それでも狐は逃げただろうか。私は石の床をまるで氷のように滑って進むことができた。曲がりくねった角やでこぼこの丸石すべてを熟知していた。あのジャズベイの匂いが、この試練に子供のような喜びの感覚を与えてくれたのかもしれない。
私はもう少しで狐を捕まえるところだった。私の指が狐の尻尾の先をかすめたが、狐は壁に向かって跳躍し、壁を突き抜けた。一瞬のことで、あまりに突拍子もなかったので、私は軌道を修正する余裕がなかった。壁に激突すると思って身を固くしたが、驚くべきことに、私は壁を貫通してしまった。
私は積もった雪に転がり込み、雪の中に深く突っ込んだので、上下の感覚もわからなくなった。うめき声をあげて体勢を立て直そうとしたが、その時何かが私の足を掴んで引っ張り出すのを感じた。雪から自由になった私は、翼がはためく力強い音と、氷と羽の塊に気づいた。グリフォンだ。
グリフォンは私を無造作に落とし、空が完全に隠れるまで翼を広げた。それは両足の爪で地面を叩き、突進しようとしていた。その時狐がグリフォンの両足の間に現われ、グリフォンの注意を引こうとつっついた。
小さな盗賊は私のフェアライトをグリフォンに差し出した。するとグリフォンは力を抜き、謝るように私を見た。
彼らが何者か、私は理解した。いたずら好きの狐と、それを守る親だ。私は座って狐がフェアライトを蹴って転がすのを見ていた。いつそうなったかはわからないが、私はグリフォンの翼にくるまれて目を覚ました。暖かく、安心だった。
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