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書籍

エルフと卵とドラゴンみたいなもの

幼いイオリは、夜は祖父からエンシェント・ドラゴンの話を聞き、昼は近くの沼でその痕跡を探しまわるという日々を送っていた。
一度ドラゴンのものだと信じて、きらきら光るうろこを持ち帰ったことがあった。
祖母はただのワマスの皮だと言って、家から遠く離れたことでイオリをきつく叱った。

それでもイオリは諦めなかった。
ドラゴンを見つけたい一心で探し続けた。
毎日どんどん祖父母の小屋から遠く離れるようになり、ある日暴風雨に遭ってしまった。
近くの洞窟に避難したが、そこは汚い水で水浸しになっていた。
水たまりを避けながら何とか洞窟の奥までたどり着くと、イオリは思いがけないものを見つけた――それは大きな緑色の卵だった!

暖かい泥に半分埋まったその卵は、命の鼓動で脈打っていた。
これはドラゴンの卵に違いない、とイオリは確信した。
祖父の話に出てくるドラゴンの卵はいつも大きく、堅く、温かいものだった。
この卵も、とてもとても温かかった。

孤独な卵だった。
母親のドラゴンも、それ以外の生き物の形跡もなかった。
今卵がかえれば、赤ちゃんドラゴンの世話をする者がおらず死んでしまうだろう、とイオリは思った。

「家には持って帰れない。おばあちゃんに潰されるか、料理されちゃう!」
彼女の祖母はドラゴンや卵など信じておらず、きっと食べ物として認識されてしまう。

「ここに残るのも無理ね」
暗くなってから帰ればどんなお仕置きが待っているか、考えたくもなかった。
「どうすればいいの?」

降りしきる雨を眺めながらイオリは考えた。
「嵐はひどくなる一方。今帰ろうとすれば道に迷うか風邪をひいちゃう。おばあちゃんも分かってくれるわ」
そう自分に言い聞かせて、一晩泊まることを決意した。

次の日の朝、入り口から差し込む日差しを浴びてイオリは目覚めた。
それまで経験したことのないほどの空腹感に襲われたが、それでも第一に考えたのは卵のことだった。
暖かい泥の中から卵を掘り出し、観察した。
卵はとても熱かった!

「きっともう生まれる寸前なんだわ!」
興奮してイオリが言うと、それに答えるかのように洞窟の外からうなり声が聞こえてきた。
「お母さんドラゴンかな?」
と彼女は思った。
しかしドラゴンの洞窟に閉じこめられるとなると、良い予感はしなかった。

さらにうなり声と、鼻をクンクン鳴らす音が聞こえた。
外にいたのはドラゴンではなく、グアルだった!
イオリは片手に卵、もう片手に石を持ち、ゆっくりと洞窟を出た。
そこにいたのは地面に鼻をつけるグアルだった。
グアルは彼女を見ると、またクンクンと鼻を鳴らした。

「あげない!」
そう叫んでグアルに石を投げつけた。
石は鼻に強く当たり、グアルは鳴き声をあげた。
しかしこのグアルは家の近くで見る、飼いならされたものとは違った。
飼いならされたグアルはうなったりしないし、怒って前足で地面を引っかいたりもしない。

イオリは走った。
グアルが追いかけてきて、彼女はだんだん恐ろしくなってきた。
卵をぐっと胸に寄せて、木の枝や転んだときの衝撃から守った。
恐ろしすぎて、グアルが諦めてからもしばらく走り続けた。
しばらくしてイオリは力尽き、膝から崩れ落ちて座り込んだ。

「もう安全だと思うよ、ドラゴンちゃん」
そう言ったイオリの表情は、一瞬にして再び恐怖にとらわれた。
卵を見るとそこにはヒビが入っていたのだ!
「キャー!」
イオリは泣き叫んだ。
きっと強く抱えすぎたか、木の枝に当たったか、もしくは――

すると1つ、また1つとヒビが入っていった。
中から押し出されて、殻が落ち始めた。

「生まれるのね!」
イオリはどうしてよいか分からず、きょろきょろと辺りを見た。
地面に置こうとかがみつつ、ためらった――逃げちゃったらどうしよう?
だが傷つけたくもなかったので、あぐらをかいて汚れたエプロンをハンモックがわりにして、卵を膝の上に置いた。

そのまま卵はガタガタと揺れながら崩れ続け、やがて穴からドラゴンの鼻が出てきた!
明るい緑色で、少しネバネバしていた。
目が開き、イオリを見上げた。
くさび形の頭からフォークのような形の舌が現れ、彼女の気持ちは高ぶった。
いよいよドラゴンが生まれるのだ!

残りの殻が全て崩れたが、驚くことにその「ドラゴン」には爪はおろか、脚すらなかった。
小さな翼の生えたヘビだったのだ。
膝にヘビの赤ん坊を乗せるなど、イオリの友達であればゾッとするようなことだが、彼女はただただあっけに取られていた。
ドラゴンの話はたくさん聞いたが、翼の生えたヘビの話など聞いたことがなかった!

生き物が殻を完全に振り払うと、イオリはその破片を慎重に片付け、両手でヘビを包んだ。
少し冷たかったが、手の中で温もりを帯びていくのが分かった。
眠そうな蛇の目でイオリを見上げると、2回まばたきをして、眠りに落ちた。

「まあでも、ドラゴンみたいなものよね?」

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