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書籍

黒き手

市井の歴史家、ジョーン・アリニー著

闇の一党としてのみ知られる地下組織の詳しい調査は、長く困難なものだった。だが何年もの研究、数えきれない面談、そして幸運に恵まれて、ついに殺人教団の指導組織を突き止めた。悪名高い黒き手だ。以下の記述は理論と憶測で補強されているものの、私が作り上げた概要に基づく分析結果は、事実に基づき間違っていない。

闇の一党のアサシンに命令する力を持っているのは、黒き手と呼ばれる一団だ。一般的な手と同じく、そのグループは5人の構成員からなる。4本の指と親指だ。指に相当する構成員は伝えし者と呼ばれ、親指に相当する構成員は聞こえし者と呼ばれる。称号と位階はこの教団に入っていない人間には馬鹿げて聞こえるが、アサシンは彼らの言葉を非常に真剣に受け止めている。

ここで、より不思議な概念を説明しなければならない。信じ難く、下位のアサシンを制御するために用いられる伝説のようにも聞こえるが、私が明らかにした限り、教団はこの概念を固守している。 ほぼ神格化された影の女族長、闇の女、またの名を夜母と言われる存在が、闇の一党を率いているという。どうやら、闇の女を見た者はいないようだ。かわりに彼女は聞こえし者にささやいて命令し、聞こえし者は伝えし者を1人選んで命令を伝える。そして、ほとんどの命令は殺人に関係している。

聞こえし者は何を聞くのか? 詳細は分からないが、知識に基づいて推測すれば、顧客から闇の女に依頼された殺す対象の名前か目標だと推測できるだろう。聞こえし者はこの情報を伝えし者の1人に渡し、この伝えし者が個人の一存で実行犯となるアサシンを選ぶか、または下位の部下に情報を伝えて任務を授ける。

私が知る限り、アサシンは1ヶ所に集まらない。この教団はその構成員をヘヴン、聖域、避難所、アサシンポートなどとして知られる、小さく自給自足した集団に分けている。ここでも情報はしばしば変動し、相反することさえあるが、様々な情報の中から真実を理解するため私は最善を尽くした。特定の地域からアサシンを広く放つために作られたと見られるこうした安息所の指導者たちは、卿、統括せし者などと呼ばれる(ある文献では未亡人と呼ばれているが、私の研究の中ではこの他の呼称のほうがより一般的である)。伝えし者は部下に命令を伝え、行動を起こすアサシンを選ばせることができる。

最終的に、私はそれぞれの伝えし者が個々のアサシンに命令を下すことがあると突き止めた。おそらくは本当に特別な任務のためだと推測する。個々のアサシンが手首や指の関節といった体の一部と考えられているのかどうかははっきり言えないが、黙りし者、静かなりし者、または奪いし者という称号が与えられている可能性があることがわかった。威圧的で、馬鹿げた名前でもある。彼らは他に類を見ない最上の殺し屋と考えられている。黒き手の構成員となっているかどうかについては確証は得られず、また彼らがどのように命令を受けとるのかという情報も見つからなかった。

闇の一党。黒き手。おかしな殺し屋の教団としては芝居がかった名前だ。だが、殺し屋に変わりはない。

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