リンメン魔術師ギルドの記録係ティバールによって文字に書き起こされたもの
[記録係のメモ: 怒りアルフィクの話はカジートの物語において長い伝統を持つ。語り部たちが常に新たな話を選集に加えているため、全部でいくつの話が存在するのか知る者は誰もいない。表題の登場人物以外では、こうした話の共通点として短いこと、脱線の多さ、ユーモラスな結末がある。
一部の者にとっては意外に映るが、これらの話は多くの民間伝承と異なり、道徳的教訓や文化的価値を教えるためのものではない。どちらかというと、怒りアルフィクの冒険は手の込んだ冗談に類するものである。だからカジートの伝統に則り、耳を澄まして笑う準備をして、ここに伝える怒りアルフィクの物語の中でも、最も人気のある数話を聞いてもらいたい]
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怒りアルフィクとセンチ
ある日、怒りアルフィクはとても可愛いセンチに出会った。それは彼がこれまでに見たどのカジートや毛皮のある生き物よりも美しかった。その瞬間、彼はこのセンチの愛を勝ち取るためなら、どんなことでもすると心に決めたのだった。
「あんたは意気地なしじゃない!」とサセイのいとこは笑った。「彼女の気を引けるの?」
「あんたは弱すぎるわ!」とキャセイの姉は笑った。「踏み潰されちゃうわよ!」
「お前は小さすぎる!」とパフマーの兄は笑った。「彼女に手も届かないだろう?」
だが怒りアルフィクは可愛いセンチの愛を勝ち取ると固く決心していた。彼は強くなるために昼夜を問わず訓練した。恋愛の本を沢山読んだ。分厚いかかとのついたブーツを4つも買った。こうした準備を整えると、彼は愛する女性の心を勝ち取るために出発した。
次の日の朝、彼は心と腰を痛めて帰ってきた。
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怒りアルフィクとリュート
ある日、怒りアルフィクは旅の吟遊詩人と出会った。彼女は怒りアルフィクがこれまでに聞いたどの吟遊詩人よりも美しく演奏し、歌った。その瞬間、彼はこの吟遊詩人のそばで音楽を演奏するためなら、どんなことでもすると心に決めたのだった。
「タンバリンをやったらどう」と吟遊詩人は言った。「口にくわえて振ればいいわ!」
しかし怒りアルフィクはタンバリンを演奏したくなかった。
「ドラムをやったらどう」と吟遊詩人は言った。「前足で叩けばいいのよ!」
しかし怒りアルフィクはドラムを演奏したくなかった。
「うーん、あなたの体で、他に演奏できる楽器がある?」と吟遊詩人は聞いた。
怒りアルフィクはリュートを吹きたいと答えた。あらゆる楽器の中で最も優雅で、美しい音色を奏でるからだ。
吟遊詩人は笑うだけだった。彼女にはこんなに小さくて、前足の不器用な者がリュートを吹くなど想像もできなかったのである。そんなことは不可能。どう考えても不可能だった!
だが彼女が笑えば笑うほど、怒りアルフィクは誤りを証明してやろうと決心を固めた。彼は吟遊詩人にリュートを渡してくれ、演奏してみるからと要求した。吟遊詩人は面白がって渡した。
怒りアルフィクはにやりと笑って鋭い爪を1本出した。彼は素早く爪を走らせて全ての弦を一度にかき鳴らし、一つ残らず切断してしまった。
こうして、怒りアルフィクは笑いながら道を駆けて行った。すぐ後ろに怒り狂った吟遊詩人を従えて。
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怒りアルフィクと口ひげ
ある日怒りアルフィクはこれまでに見た中で最も大きくふさふさの口ひげを見た。それは黒く分厚く、その生やし手であるカジートの腹まで伸びていた。その瞬間、彼はあのような素晴らしい口ひげを生やすためなら、どんなことでもすると心に決めたのだった。
だがいかに努力を重ねても、怒りアルフィクは顎に元々生えている毛をそれ以上伸ばすことはできなかった。様々な調合薬や、呪文まで試したが、何も効果はないようだった。
「この者が力を貸すわ!」とサセイのいとこが言った。「ただし家族でも、ゴールドは払ってもらうわよ」
怒りアルフィクはこの条件に同意し、サセイのいとこは仕事に取り掛かった。いとこはタールを接着剤にして羽根をどんどん重ね、怒りアルフィクの顎につけた。仕事が完了すると、彼女は荷袋から鏡を取り出した。
怒りアルフィクは怒ってフーッと声を上げ、サセイのいとこの敏感な鼻のあたりを鋭い爪で払った。いとこがわめいている間に、怒りアルフィクは自分のゴールドと、ついてに彼女のゴールドも全部取り、急いで家を去った。
「この者が力を貸すわ!」とキャセイの姉が言った。「ただし親戚でも、お金は払ってもらうわよ」
怒りアルフィクは再びこの条件に同意した。今度の姉はハチミツを使い、綿の塊を次々と彼の顎に付けていった。ついに作業を終えると、姉は怒りアルフィクを連れて行き、壁にかかった鏡を見せてやった。
怒りアルフィクは怒りで吠えて、キャセイの姉の手のあたりを鋭い爪で払った。姉がわめいている間に、彼は自分のゴールドと、ついでに姉のゴールドも全部取り、急いで部屋を去った。
「俺が力を貸そう!」とパフマーの兄が言った。「ただし、もしうまくいったら、お前が今持ってる金を全部俺に渡すんだ」
ためらったが、怒りアルフィクは同意した。そしてパフマーの兄は口ひげのあるどこかの知らない人のところに行って殴り倒し、その顎から器用に1本残らず毛を切り取った。彼は歯をむき出してニヤニヤしながら、その大きな毛の塊を怒りアルフィクに見せた。
怒りアルフィクは何度も唸ったが、それでもゴールドを手放した。確かにパフマーの兄は、とてもよい口ひげを渡してくれたからだった。
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