ある朝、アッバ・アールは子供たちに尋ねた。
「我々の両親、太った母を知っているか?」
子供たちは首を振り、
「ううん。太った母のことは知らない。
アッバ、彼女のことを教えてくれる?」
アッバは頷いて話を始めた。
「人々が農耕を始める前、彼らは草原の動物を狩り、肉だけを食べていた。
しかしある朝、狩人達は狩りに出かけたが、動物を一匹も見つけられなかった。
そして、族長は彼らにこう言った。
「我々は全ての動物を殺してしまったので、獲物がいなくなった。
だからこの場所を去り、新たに獲物がいる場所を探さねばならない」
「そして、人々は荷物をまとめると、食料を求めて旅に出た。
この旅の一団の中に、オルサと呼ばれる者がいた。
彼女は人々から避けられていた。
彼らは太っていて、見た目が醜いからという理由で仲間外れにした」
「ある日、人々は高い山の麓にたどりついた。
そして、こう嘆き出した。
"腹が減って仕方がない!
すぐに何か食べなければ、きっと飢え死にしてしまう。
食う物もなしに、こんな山に登れるか!"」
「これを聞いて、オルサが前に進み出た。
"皆は私を仲間外れにするけれど、私はまだ皆を愛しているわ。
こっちに来て、私の左の乳房からお乳を飲んで。
そうしたら、山に登る力が沸いて来るかもしれないわ"。
人々はとても喜んで、お腹いっぱいになるまでお乳を飲んだ。
腹がお乳で満たされると、人々は山を登り始め、死ぬこともなかった。
そうであったにも関わらず、彼らはオルサを惨めに扱った」
「そして月日は流れ、人々は川に行き当たった。
するとまたこう言って嘆き出した。
"腹が減って仕方がない!
すぐに何か食べられなければ、きっと飢え死にしてしまう。
食べる物もなしに、こんな川を渡れるか!"」
「するとオルサが言った。
"私はまだ仲間外れだけれど、皆を愛しているわ。
こっちに来て、私の右の乳房からお乳を飲んで。
そうしたら川を渡る力が沸いて来るかもしれない"。
もう一度、人々は貪欲に腹を満たした。
彼らは泳いで川を渡り、1人も死ぬことはなかった。
このことがあってからも、人々はオルサと仲間のように交流しなかった」
「さらに月日が流れ、人々は広大な砂漠の端にやってきた。
もう一度、人々は嘆いた。
"腹が減って仕方がない!
すぐに何か食べなければ、きっと飢え死にしてしまう。
食べる物もなしに、こんな砂漠を歩けるか!"」
「人々はオルサを見て、助けを求めた。
"また乳を飲ませてくれないか、太った女よ?"。
こう尋ねた」
「"できないわ"とオルサは言った。
"あなた達は山の麓で私の左の乳を飲み、川の岸で右の乳を飲んだ。
これ以上はお乳が出ないわ"」
「人々はとても動揺し、がっくりと膝を落として泣きだした」
「その夜、オルサは星に祈った。
"ああ、お星様、私はどうすればいいですか?
もうこれ以上人々にあげるお乳はない。
私たちは、食べる物がなければ飢え死にするでしょう"」
「すると星はオルサにこう言った。
"オルサ、なぜあの人達のために泣くの?
彼らはあなたを仲間外れにして、ひどい冗談で笑い者にするでしょう?
彼らが死ねば、彼らと共に生きる苦しみから解放される。
そのほうがいいでしょう"」
「"いいえ"とオルサは言った。
"私は太っていて、見た目もよくないから、夫がいないの。
私には自分の子供がいないわ。
でもこの人達が私の子供になってくれた、だから何があっても子供達の世話をしなければ"」
「星は、これを聞いて不憫に思った。
"オルサ、あなたがその子供達の世話をする手助けをして、多くの子供を授けてあげましょう。
その代わり、約束をしてください"」
「"はい、どんなことでも!"
と、オルサは叫んだ」
「星はこう答えた。
"もしその人達があなたを一瞬でも惨めに扱ったら、あなたは彼らに必ず攻撃すること。
彼らにあなたをきちんと扱うことを教えてやりなさい"」
「"約束します"とオルサは答えた」
「それから、星は最も強い魔法を使って、オルサをとても太った蜂に変えた。
人々は彼女の巣からハチミツを取って食べることを覚え、生きて砂漠を越えた先にある彼らの新たな土地を見た。
けれど太った母は約束を守り続けた。
もし人々が彼女をきちんと扱わなかったら、オルサとその子供達が彼らを刺して、彼らの幸運を思い出させた。
そうして、太った母さんは我々と一緒にいるんだよ」
アッバが話を終えると、子供達はにっこりと笑って、アッバに太った母さんのハチミツをおねだりした。
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