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南中の月7日
アカヴィリの大船団が浜辺に押し寄せてくる。一部は撃退または撃沈したものの、こちらの防備をかいくぐった船のほうが多い。我が軍は前進し、浜辺を見おろす断崖の上で敵と相まみえることにした。地の利を活かす作戦だ。
見晴らしの利く崖の上から、女王は近づいてくる敵を眺め渡しておられる。ブラッドクローの獰猛さと強さを、女王は直にご覧になられるだろう!
南中の月8日
アカヴィリの船団は、沖合で錨を下ろした。おそらく我々の刃を恐れているのだろう。ならば、せいぜい船の上で飢えさせてやりましょう。私がそう申し上げると、ナルンヒルデ姫は首を振り、きっと彼らは臆病風に吹かれた訳ではなく、何か企んでいるのだとおっしゃる。私より賢くあらせられる姫のお言葉だ。私はさっそく斥候を差し向けた。敵が何か腰抜けの考えそうな策略を実行に移そうとしているのならば、その内容を突き止め、不埒な意図をくじいてくれよう。
南中の月19日
あれから1週間以上経つが、依然としてアカヴィリは攻めてこない。我が兵は落ち着きを失い、ナルンヒルデ姫も考え込んでおられる。斥候は空手で戻ってきていた。それでも、私は毎日のように斥候を出している。私に異論を唱える者などいないが、もう一度海岸沿いを哨戒してくるように命じられたときの彼らの表情を見れば、言いたいことは嫌でも分かる。
ブラッドクローは殺戮のために創設された部隊だ。待ち続けるためではない。
南中の月22日
野営地では口論やケンカが絶えなくなった。アカヴィリの船団は依然として我々の手が届かないところで待機している。海岸沿いの北と南では攻撃があったとの報告を受けた。特に南は、ダークエルフの領土までアカヴィリの攻撃が及んでいるという。よそで戦闘が起きているのに、なぜ自分たちはここでただ待っているのか。兵士たちは怪訝に思っている。そして、その怪訝な思いは怒りに変わりつつある。
目の前の船団こそが敵の主力であり、向こうは我々を誘い出そうとしているのです。王女がそう諭すと、兵士たちも頭を冷やし、短慮を慎むようになる。姫は彼らの怒りや反発をものともされない。もっと頻繁に兵士たちに語りかけてくださるとよいのだが。
南中の月26日
今日アカヴィリの船が1隻、浜に乗りあげた。夜明け前の、まだ暗い時刻だった。我が軍の兵士たちが船を取り囲み、矢が雨あられと射かけられるのを予想して身構えたが、意外にも敵の攻撃はない。今にして思えば、あれほどの大型船が浜に乗りあげること自体おかしかったのだが、兵士たちは退屈し、血に飢えていた。結局その船に仕掛けられた魔法の罠が作動し、我が方に7名の犠牲者を出した。
我が軍の兵士たちがあれほど怒りに駆られるのを、私は見たことがない。王女でさえ、なだめるのに苦労されたほどだ。アカヴィリが上陸してきたら、連中は八つ裂きにされるだろう。我々が自分の体を八つ裂きにしていなければの話だが。
南中の月29日
ダークエルフの地が蹂躙されているという報告が相次いで寄せられる。ノルドとダークエルフは本来不仲ではあるが、今度ばかりは彼らが感じているに違いない無念に共感せずにはいられない。報告で聞くかの地でのアカヴィリの狼藉ぶりに、我が軍の兵士たちは戦いへの飢えを募らせるばかりだ。
姫と話をした。今度の知らせで、ブラッドクローの鬱屈が未知の域にまで高まる恐れがあると申しあげる。王女は何もおっしゃらず、唇を真一文字に結ばれただけだった。常に我々の数歩先を行っておられる姫のこと。もしや、私がまだ気づいていない何かに気づいておられるのでは?
収穫の月2日
今朝、アカヴィリが上陸してきた。ついに破壊の大波が浜に打ち寄せたのだ。戦闘準備の号令が下るや、我が軍の兵士たちは冷静さを失ってしまった。彼らは闇雲に打って出、第一陣は戦列を整える間もなく敵の弓兵になぎ倒された。結局こうした無謀さの代償として我々は浜辺を失い、侵略者が我が領土に橋頭保を築くのを許す結果になった。
収穫の月3日
我々は後退を余儀なくされた。戦闘があまりに激烈なのを見かねたナルンヒルデ姫は、全軍にウィンドヘルムまで退くよう命じられたのだ。かくなる上は城壁で敵を迎え撃ち、地の利を生かして侵略者を完膚なきまでに叩きつぶしてくれよう!
収穫の月4日
この張りつめた空気。今夜にも、アカヴィリが総攻撃を仕掛けてきそうな気配だ。ナルンヒルデ姫も鎧に身を包んでおられる。ブラッドクローは姫に従うだろう。姫の命令がドラゴンの声のように聞こえるに違いない。だが、リスクは途方もなく高い。一方、双子の王子がすぐそこまで来ておられるとの知らせが届いた。戦いながらウィンドヘルムに向かっておられるという。お二人が間に合ってくださることを祈るばかりだ。
収穫の月7日
マブジャールン女王とナルンヒルデ姫は亡くなられた。ウィンドヘルムの城門が破られるのをご覧になった姫は、ブラッドクローを率いて戦いに身を投じられたのだ。彼らはかつて私が見たこともないような戦いぶりを示し、完璧な連携で暴れまわった。マブジャールン女王が討ち死にされると、皆が怒りに我を忘れそうになったが、ナルンヒルデが王冠を被られ、戦列に秩序を回復しようとされた。結局、アカヴィリは都から撤退した。向こうは我々を追い詰めたつもりかもしれないし、実際その通りだが、その結果覚醒した獣は、彼らの手におえる相手ではなかったのだ。
それでも、また彼らは戻ってきた。新女王ナルンヒルデ陛下はすでにない。本来であれば、私が配下の戦士たちを指揮し、制御できなければならなかった。死ぬべきは新女王でなく、私だったのだ。その死の責任は私にある。そのことを、双子の王子に直接説明申しあげなければ。
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