ESO > 書籍 > リーパーズ・マーチの伝承
ギ・ナンス著
「あまりにおかどちがいなエルフの放言に、私はあえぎかけた。修練を積んだわれわれと対等に戦わせてほしいなどと、よくもぬけぬけと言えたものだ。驚いたことに、大司祭はふたつ返事で請け合うと、初心者階級の登録名簿にタレン・オマサンの名を書き加えたのだ。私は選ばれた同輩たちにこの話を耳打ちしたくてうずうずしていたが、あと数分で自分の初戦が始まるところだった」
「私は十八戦連続で戦い、全勝した。アリーナに集った観衆は私の才能のことを知っていて、対戦が終わるたびに控えめな、驚きの少ない拍手を浴びせてきた。どんなに戦いに集中しようとしても、アリーナの他の出場者に注目が集まっていくのが気になってしかたがなかった。観客はひそひそ話に勤しみ、無傷の連勝記録よりもはるかに刺激的で、先の読めない対戦を求めて何人もが席を立ちはじめていた」
「双子月の舞踏の聖堂で教えるもっとも大切な授業のひとつが、虚栄心を捨てることだろう。私はそのとき、心身を合致させて無意味な外部の影響をはねつけることの大切さを理解してはいたが、心では受け入れていなかったのだな。自分が強いことはわかっていながら、自尊心が傷ついたのだ」
「とうとうチャンピオン決定戦となった。私は勝ち残ったふたりのうちのひとりだった。対戦相手の戦士を目にしたとき、傷だらけの威厳に満ちていた私の心は不信感に染まった。私の敵は召使のタレンだったのだ」
「これは冗談にちがいない、哲学的な最終試験にちがいないと、私は自分に言い聞かせた。それから観衆を見やると、世紀の一戦が始まるという期待感で誰もが目を輝かせていた。タレンと敬意を取り交わした。私はぎくしゃくと、彼はいかにも慎み深く。戦いが幕を開けた」
「最初はさっさと終わらせる気でいた。タレンなどアリーナを掃除するほどの価値もないのに、そこで戦うなどもってのほかだと思っていた。まったくとんちんかんな考えだったよ。タレンも私と同じように、何人もの生徒を倒して決勝の舞台まで勝ち上がってきたとわかっていたはずなのに。タレンは私の攻撃に対してよくあるカウンターで応じ、殴られたら殴り返した。幅広いスタイルを持っていて、洗練された難しい足技を使ったかと思えば、次の瞬間には単純なジャブやキックを放ってきた。私は執拗に攻撃を繰り出してタレンを圧倒しようとしたが、私の才能を恐れるような、あるいは見下すような色がその顔に浮かぶことはなかった」
「長い戦いになった。いつ敗北を覚悟したのかは覚えていないが、試合が終わっても結果をすんなりと受け入れた。普段は感じないようなうそ偽りのない謙虚さでもって、私は彼に一礼した。が、万雷の拍手に送られながらアリーナをあとにするとき、私は訊かずにはいられなかった。いったいどうやって師範級の腕前をこっそりと磨いていったのかと」
「私の立場ではそうするしかなかったのです」と、タレンは言った。「毎日毎日、私は優秀な生徒の訓練場を掃除し、それが終わると初級の生徒の訓練場を掃除してきました。そのせいか、初歩的な失敗や教訓、技術を忘れるという不運に見舞われることなく、師範のあるべき道を観察し、学んでいくことができたのです」
「翌朝、タレンはトルヴァルを後にして故郷へ帰っていった。それ以来、彼とは会っていない。人づてに司祭や師範になったという話を耳にはしたが。私も師範になって、双子月の舞踏の聖堂で訓練を始めたばかりの子供達や、才能ある者達の面倒を見ている。そして傑出した生徒がいれば、ゆめゆめ初心を忘れることのないよう、未熟な戦いを見物しに連れていくことにしているのだ」
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