ソリス・アデュロ著
「3人だけか」とマティウスは抗議した。
3人では偵察隊にもならない。
本格的な探検隊となればなおさらだ。
「最低でも9人という約束だったのに」
ターナは机の上にドンと足を投げ出した。
「それが精一杯だったわ、マティウス。あんたの名前にもう昔みたいな効力はないの」
マティウスはそれが本当のことだと知ってはいたが、自分の友人からそう言われたのは初めてだった。
自分の任務を続けるつもりだと言ってから、ターナが彼に冷たくなったことにマティウスは気づいた。
彼がインペリアル公認の調査隊のリーダーとして、ブラック・マーシュ地域の正確な地図を作る任務についてもう10年が過ぎた。
国境地域は十分に画定されたが、沼地の中心部についての情報は乏しく、検証不可能だった。
帝国から市民へ広められる公式の記述ですら、無数の疑わしい報告に基づいて作った、継ぎはぎだらけの物語だった。
探検は失敗と考えられていた。
彼の仲間は探検が長引くにつれて死ぬか任務を放棄して、規模を刻々と縮小していった。
ターナは彼のところに残った唯一の者だが、彼女は病気にかかってうわごとを言うようになり、旅の最後の日々を思い出せなくなってしまった。
そしてマティウスが大学に戻って失われた都市や古代文明について話すと、彼の主張を保証する目撃者が他にいないこともあって、疑いの目にさらされるたのである。
それ以後、ターナとの関係は変わってしまった。
マーシュは彼らを二人とも変えてしまったが、その余波もまた楽なものではなかった。
マティウスは昔のことを水に流してまた一緒にやれることを期待していたが、ターナはもう二度とブラック・マーシュには戻らないと言ってきっぱり断ったのである。
彼女は隊員集めに協力してくれた。
マティウスとしては、力を貸してくれる人がいるだけでも感謝しなければならなかった。
「少なくとも、そいつらは経験豊かなんだろうな」。
彼には期待するしかなかった。
「運がいいわよ」とターナは言い、何かの書類を眺めた。
「まあ、あんたがハイエルフと仲良くできるならね。
彼女は魔闘士だから、何とかなるでしょ。
名前はサラーラ。
聞いたことない名だけど」
マティウスは眉をひそめた。
そんな熟練の仲間が手に入るのは嬉しいはずだったが、何か警戒すべきものを感じたのだ。
「なぜ魔闘士が私のところに来るんだ?」
ターナは肩をすくめた。
「私の知る限り、これは公認の任務じゃない。
私の情報筋も彼女については何も知らない。
自分なりの理由があって来たんでしょう。
今は贅沢言ってる場合じゃないわ」
マティウスはうなずいた。
そのエルフには目を配っておかなくてはならないだろう。
「で、他の二人は?」
「逃亡奴隷のリファン。
若いけど熱心なノルドよ。
情熱の大切さは知ってるでしょう。
先回りして言っておくけど、彼は読み書きできるし、狩りや食料調達の腕もそれなりにある。
これまで自分の力で生き残ってきたんだから、チャンスを与えてやりなさい」
働き手が多いのは悪い事ではないし、チームの規模は小さいからその少年が邪魔になることはないだろう。
それでもマティウスは、覚悟のない者にとってこの旅がどれほど厳しいものになるかを知っていたので、申し訳ない気分になった。
「で、三人目は?
まだ案内人の話をしてないだろう。
アルゴニアンの協力者なしにはどこにも行けないぞ。
少なくとも、それくらいは覚えているだろう」。
そう言ってしまったことをマティウスは後悔したが、ターナは無視した。
「河のエラ」と彼女は言った。
「あんたが依頼したとおり、経験豊富なアルゴニアンの案内人よ。条件は一つだけ」
「条件があるのか?」
マティウスはため息をついた。
「俺が約束した金額は提示したか?」
「したわよ。最後まで聞いて」。
ターナは一旦話を切った。
彼を待たせるためだけにやっているようだった。
「河のエラは途中まで案内してくれる。
そこからはあんたが行きたいところに半分の時間で連れていってくれる、別の者を紹介してくれると約束している」
良識ある人間なら断るところだとマティウスは思ったが、彼には断れないのが分かっていた。
どんなに見込みが薄くても、もう一度チャンスを得られるのをもう10年も待ち続けてきた。
沼にはあまり人前に姿を現さない部族がいて、隠された道を知っているという話はマティウスも聞いたことがあった。
そうした部族と安全に接触できるという考えは、彼を勇気づける程度には魅力的だった。
「よしわかった」とマティウスは言った。
「ありがとう、ターナ」。
彼は背を向けて立ち去ろうとしたが、扉のところで立ち止まった。
「本当に、何を言っても一緒に来てはくれないのか?
やっぱり、俺たちは二人で行かないと」
「言ったでしょ、マティウス。
たとえ世界中のゴールドをもらってもブラック・マーシュには戻らないって。
私のほうこそ、行かないようあんたを説得できたらと思うわよ」
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