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書籍

イナリースからの手紙

バスティアン様

私を覚えていらっしゃるでしょうか。計算だと、そろそろ15歳におなりでしょう。ほとんど大人ですね。最後にお会いした時は本当にお小さかったですが、何年もあなたのことを考えておりました。

私は亡きお父様とご結婚される前から、あなたのお母様の召使をしておりました。お母様が亡くなられてからも、しばらくの間はお世話をさせていただきました。私があなたをダガーフォールのシルヴェッレ家にお連れして、何ヶ月かそちらにお仕えしたのです。ですが、まだ小さい内に去らねばなりませんでした。

私は具合がお悪く、もう長くないことをお分かりになっている時にさえ、お母様が一番気にかけ、心配していたのがあなたであることをお知らせしたいのです。お母様はあなたの教育やその他の資金を確保するため、持参金の中から宝石を取り分けておいででした。そしてシルヴェッレ家を離れることが許されたら、すぐにあなたをお姉さまのところにお連れして、一緒に暮らせるようにして欲しいと私に依頼なさったのです。クラレーヌ様はあなたよりもかなり年上で、お父様が屈辱を受けた時にはすでに幸せな結婚をなさっておいででした。なのにどういう訳か、シルヴェッレ家はあなたを解放するどころか義務を負わせたのです。あなたの旅路が続きそうだと思われた時に何度もお願いしましたが、満足のいく返事は決して得られませんでした。その後間もなく私は解雇されました。

私は今、レッドファーの村に住み、宿屋 〈ハーティー・ホーヴァー〉で働いています。グラーウッドには何人か家族もおり、最近は十分に満ち足りています。もしお手紙をくださるなら、あるいはこちらの方にいらっしゃるようなことがあるなら、元気だと一言お知らせいただけたら、こんなに嬉しいことはございません。

心からの愛情を込めて
イナリース

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