「鴨だわ、タムシン伯爵」。
捜査官ヴェイルは、たくましい貴族から転がるように離れながら声を上げた。
タムシンは困惑し、柔らかい曲線を持つ秘密捜査官が体の上から消えたことを惜しんだ。
肘をついてもがきながら叫んだ。
「セクシーな探偵よ、鴨とは? そんな話をする時間じゃない」
ヴェイルは裸の伯爵を置き去りにしてベッドから跳び出し、シルクのシーツを体に巻いた。
「あら、絶好の時間よ! あなたの屋敷で何が起こったか、ようやく突き止めた」
タムシンは枕で体を隠そうと無駄な抵抗をしながら、「謎の死のこと?」としどろもどろに言った。
起き上がって彼女のそばに行くか、そのままベッドにいるか迷っていた。
「確かに君を雇ったのは難題を解くためだが、その前にやることをやってから解決して欲しいな」
「そんなムードにはもうなれないのよ、タムシン伯爵。羽をむしり取るべき鳥が他にできたから」
「何の話をしているんだ、ヴェイル?」。
伯爵は狼狽しながらも、同じくらいに怒ってどうしても声を抑えられなかった。
「分かりやすく話せ!」
「分かりやすく? 分かりやすく話してるのに! 創意工夫に富んだ計画だったけど、捜査官ヴェイルがいつもどおり解決したの」
「ヴェイル! 私の理性も君のムードと同じくらい、切れてなくなりそうだ… 」
ヴェイルは笑みを浮かべて窓際に腰を下ろすと、漆黒の長い髪をそよ風にたなびかせた。
「猟区管理人のジェリター・ナッレだわ。死んだ時の状況を調べてみると、どれも鴨のローストを食べた直後だった。ナッレが気前よく提供した鴨を。彼があなたの部下を毒殺したのよ」
「あの悪党め!」とタムシン伯爵は怒鳴った。
「切り刻んで、奴の鴨の餌にしてやる、ふざけおって!」
突然、ヴェイルは体を伯爵に密着させた。
二人を隔てるのはシルクのシーツ1枚のみ。
「伯爵、大好きよ、あなたの考え方」と甘えた声で言った。
「ムードが戻って来たみたい」
「猟区管理人はどうなる?」
「正義は遅かれ早かれ下されるわ、タムシン」とヴェイルは囁いた。
「でも私達は途中だったのに、急に事件が解決して水を差されてしまった。私は欲しくてたまらない。鴨よりもう少し中身のあるものが欲しいムードなの」
「ああ、捜査官ヴェイル」と伯爵は言い、捜査官とベッドに戻った。
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