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書籍

捜査官ヴェイル:死の通行料

「見たところ、殺人で間違いなさそうね」
古い木の橋に近づきながら捜査官ヴェイルは言った。
「経験上、自分の首はそうそう切り落とせるものじゃないから」

街を少し出たところにある、目立たない川にかかる橋だった。
橋にも川にも特に変わったことや特筆すべき点はなかったが、市長とその側近たちは捜査官をそこへ連れてきたのだった。
変わったことといえば、橋の右側にかかる手すりの上に丁寧に乗せられた生首ぐらいのものだった。

「ほとんど見ていないじゃないか」。
市長に信頼される側近であり、街一番の商人でもあるジャカード・ヘリックが口を開いた。
「何を言っている。なぜそんなことが断言できるんだ?」

「それだけ腕がいいの。だから市長は私を雇ったんじゃない」
現場の観察を続けながらヴェイルは言った。
血が少なすぎる、体が見当たらないなどといった所見を市長と側近たちに指摘し、橋の上で起こった殺人ではないと説明した。

「このかわいそうなハイエルフに見覚えは?」
頭部を近くで見ようとかがみながらヴェイルが聞いた。
明らかに年をとった男性のエルフであり、髪の毛は完璧に整えられ穏やかな表情をしていた。
首にあいた穴から皮や骨が垂れ下がっていなければどう見ても平穏な状態なのに、とヴェイルは思った。

「あれは金貸しのグラノニール。あのうぬぼれた表情はどこで見てもすぐに分かる」
橋まで同行していた、若く可愛らしい衛兵が口走った。

余計な口を挟んだ彼女に市長が厳しい表情を向けたが、それ以上は咎めなかった。
そしてヴェイルの方を向き直って「それで捜査官さん、ここで何が起こったのか教えてくれないか?」
と言った。

最後に辺りをさっと見渡し、ヴェイルはにこやかに答えた。
「ええ、間違いないわ。
ムーアクロフト市長、あなたの顔にそびえ立つ鼻ぐらい明確よ。
というより、彼の鼻かしらね」
と言って商人のヘリックに顔を向けた。

ヘリックは咳払いをして、口ごもった。
「な、なにが言いたいんだ、捜査官ヴェイル?」

ヴェイルはヘリックににっこりと笑いかけた。
「何も言ってないわよ。まだ、ね」
そう言うと被害者の髪から何かを抜き出し、さらに首の下の手すりにできていた血だまりから何かを取り出した。
その2つを見て、交互に臭いをかぎ、自信たっぷりに市長の方を向いた。

1つ目の物体を見せ、こう言った。
「これはどう見てもスッポンタケね。
この金貸しの頭髪に何本か茎が刺さっていたから、トロールはこれに引き寄せられたんでしょうね」

続けて2つ目の物体を見せてこう言った。
「これは紅茶の葉ね。
金貸しから滴っていた血液に混ざっていたわ。
紅茶。あなたの主要な売り物の1つよね、ヘリック?」

商人は額に汗をにじませ、大きな音で唾を飲み、橋から後ずさり始めた。
可愛らしい衛兵が手際よくその道を阻み、剣の柄に手をかけた。

「捜査官ヴェイル、はっきりと説明したまえ」
明らかにうろたえながら、市長が言った。

「ああ、そうね」
とヴェイルはため息をついた。
「誰もが私のようにはっきりと世界を見る目を持っていないんだったわ。
ジャカード・ヘリックはこの金貸しに多額の借金があった。
今季の紅茶の不作もあって、返せる見込みがなかった。
この橋の下に隠れていたトロールに気付き、それを使って問題を処理しようと考えたのよ。
橋で会おうとグラノニールを説得して、そこで突然袋一杯のスッポンタケを頭の上からかぶせ、川に突き落とした。
トロールが現れ、金貸しの頭を引きちぎり、残りの胴体を橋の下へと持ち帰ったわけ。
かわいそうなグラノニールの残骸と、満腹で眠っているトロールが私たちの真下で見つかるはずよ」

「そんな…そんなのデタラメだ!」
商人が叫んだ。

「いいえ、反論の余地はないわ」
とヴェイルは自信満々に返した。
「ヘリック、あなたの袖にまだ紅茶の葉がついているわ。
倉庫で作業しているときに付いたんでしょうね」

「ムーアクロフト市長、この悪人をダンジョンに放り込みましょうか?」
捜査官の方へ笑みを向けながら、若く可愛らしい衛兵が聞いた。

「当たり前じゃないの」
と言ってヴェイルは市長の腕に手を回した。
「そうしたらもっと衛兵を呼んでこないと、いつまでも橋の下のトロールを追い払えないわよ。
さ、行きましょ、ムーアクロフト市長。
私の報酬の話をしないと…」

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