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書籍

自由の代償

代金が支払われ、取引が成立した。波風を立てる者は新しい主人の所有物となったのである。

センドラサ・ルラリスは、たった今買い付けたばかりの奴隷がすでに購入済みの奴隷の群れに加わる様子を眺めた。あまり長く見つめたものだから、波風を立てる者がセンドラサの視線に気づく。一瞬2人のまなざしが交錯するが、双方があわてて目をそらした。奴隷が主人と目を合わせれば、鞭打ち10回の刑に処せられる。

市場から屋敷まではたかだか7マイルの道のりだが、センドラサには屋敷に帰り着くまでの時間が永遠にも感じられた。自分の城を構え、波風を立てる者を連れ帰れるようになるまで、何年も辛抱強く待ったのだから無理もない。

「全員、離れに連れていきなさい」召使の手を借りて馬から降りながら、センドラサはそう命じた。「ただし、あれだけ」と言って、波風を立てる者の方を示す。「居間で待たせておいて。身のまわりの世話をさせることにしたから」

「かしこまりました、奥様」

手袋をはずしながら屋敷に入ってゆくセンドラサの足取りは軽かった。彼女は笑いながら独りごちる。「ついにやったわ! これで私の思い通りになる」

最後に恋人と口づけを交わしてから、どれぐらい経つだろうか? 人目を忍ぶ逢瀬のたびに、互いの後ろめたさから狂おしく抱き合ったあの頃から、いったいどれほどの月日が流れただろうか? 2人の仲が露見してからというもの、自分はどれほどの苦しみを味わっただろう? まるで――と、センドラサは苦い思いをかみしめる――愛する恋人がアーチェインたちの手で売られていくのをなすすべもなく見守るだけでは、償い足りないとでもいうように。

それ以来、センドラサがついに波風を立てる者の居所を突きとめ、自分の手に買い戻すまで、時は恐ろしいほどゆっくりとしか進まなかった。今度こそ誰にも邪魔させない。仲を引き裂かせはしない。2人は一心同体なのだ。

扉が開き、波風を立てる者が部屋に入ってきた。奴隷の作法を守り、目を伏せている。センドラサはつかつかと彼女のかたわらを通り過ぎると、扉を閉めて鍵をかけ、それから恋人に向きなおった。

「会いたかったわ」ささやくようにセンドラサは言う。

次の瞬間、2人はひしと抱き合っていた。センドラサは波風を立てる者の鱗に優しく、探るように指を這わせる。

拷問されたのね? あいつら、ただじゃおかないから!

波風を立てる者はかぶりを振った。その拍子に背びれがぱたぱたと揺れる。「平気よ。あなたに会えたんですもの。傷なんか癒えるわ。でも、アーチェインたちは…」

「大丈夫。あの裏切り者たちにはもう、指一本触れさせないから」

「ねえ、聞いて」波風を立てる者は言った。「あなたのご両親はアーチェインに大金を支払ったわ。どこだろうと、彼らの目が光ってる。あなたが私を買い戻したことはいずれ伝わるでしょうし、そうなったらきっと連れ戻しに来るわ」

「じゃあ自由民にしてあげる。そうすれば手出しできないわ!」

「どうかしら」とアルゴニアンはささやいた。「アーチェインは自由民でもお構いなしに売りさばくわ。2人で安心して暮らそうと思ったら、モロウウィンドを離れるしかないの」

「わかったわ。さあ、キスしてちょうだい」

暮色が近づくなか、センドラサと波風を立てる者はスカイリムとの境界を目指し、北西に向けて旅立った。

「リフテンは安全かしら?」波風を立てる者はささやいた。追っ手をまくために、あえて道をはずれてからもう数日になる。

答えようとしたセンドラサの喉を、矢が射抜いていた。片手で矢をつかむ彼女。その目は驚愕にみひらかれている。すぐさま二の矢、三の矢が飛来し、ダークエルフが地面にくずおれたときには、とうに息はなかった。

「晴れて自由の身だな」そう言いながら、アルゴニアンの射手が暗がりから姿を現した。

波風を立てる者は言葉もなく、ただ呆然と射手を見つめた。

「手荒な扱いを受けてないか?」射手はそう言いながら近づいてくる。「これでブラック・マーシュに帰れるぞ。もう君は奴隷じゃないんだ」

波風を立てる者はセンドラサの亡骸にすがりつき、すすり泣くのだった。

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